第三十話 幹部全滅
危ない危ない。マジでギリギリだった。
先日、俺をあれだけ痛めつけてくれたネイアの首をミスリルの剣で貫きながら、俺は内心でそんな事を思う。
ずっと、敵味方の攻撃に巻き込まれないように気を付けながら、戦場を俯瞰していたのだが……マジでグーラとネイアに隙が無かった。
ネイアは魔力消費量の激しい魔法をバカスカ使い、魔力回復薬が効く限界ギリギリまで戦いやがった。そして、グーラはその身を顧みずに突貫し、1人は確実に持っていこうと、躍起になっていた。
お陰で近衛騎士団団長のゼーロスが死にかけてしまったが……ギリギリ、俺がスライムに持たせ、割るよう命じていた最高級のポーションが効いてくれたようだ。
「姿を見せたのは痛いが……仕方ない……か」
姿を晒してしまうのは不本意だが……流石にこの戦いと天秤にかけてしまえば、どちらに傾くのかは言うまでもない。
「お前か!!」
すると、鬼のような形相をしたグーラが、怒りの咆哮を上げた。
そして、その勢いのまま俺目掛けて突撃しようとする……が。
「なっ……!?」
まるで糸が切れたかのように、両膝が地面に崩れ落ちた。
「足元がお留守だ。前以上に、簡単だったよ」
即座にグーラの両足の健を変異種スライムで溶かす事で、動けなくしてやった。
「舐める、なあ!!」
だが、続けて数本の漆黒の大剣が空中に出現したかと思えば、俺を貫かんと襲い掛かって来た。
しかし、それでは……俺を仕留める事は出来ない。
「お前こそ、舐めるなよ」
ザン!
俺は即座にグーラの背後へ転移すると、その心臓を背後から貫いて見せた。
「あっ……」
それがとどめとなり、バタリと横向きで地面に倒れるグーラ。同時に、漆黒の大剣も全て、まるで命の灯が消えるかのように、ふっと霧散消滅してしまった。
「は、は……何となく、お前が、来る、気は、して、た……」
心臓を貫かれても尚、喋る事のできるグーラに俺は微かに目を見開きつつも、「そうか」と短く答えた。
そして、完全にとどめを刺すべく、俺はミスリルの剣の剣先をグーラに向ける。
「容赦、無いな……だが、それが、いい。それで、いい……。もう、すべき事は、全てやった……」
「……ああ。眠れ」
そう言って、俺はグーラの首を落とすのであった。
「ふぅ。これで、全ての幹部が死んだかな」
これで、残る敵は俺が調べた限りでは、ノワールただ1人。
油断は出来ない。ただ、俺は俺が出来る事を、全力でこなすだけだ。
「……それはそうとして……説明どうしようかな」
俺は眼前に立つ、グルトニア帝国総指揮官、リオルム総督を前に、遠い目をしながらそんな事を言うのであった。
「いや、どうしようかなじゃ無くて……取りあえず肩書と名前を言え……言ってくれないか?」
そんな俺に対し、リオルム総督は困惑しつつも、実に至極まっとうな事を聞いてきた。ただ、俺が見るからに10歳になるかどうかの子供という事もあってか、途中から急に柔らかい物腰に変えているが。
んー……グルトニア帝国とここグラシア王国の仲は良好。最大の手札は晒していない。誤魔化す方が、面倒そう……
一瞬の内に思考を巡らせた俺は、最適解を導き出すと、それを言葉にした。
「俺の名前はシン。グラシア王国王太子、レイン・フォン・フェリシール・グラシア様直属の配下だ」
俺の言葉に、リオルム総督は目に見えて驚いていた。
「マジか……あの人間不信のレイン殿下に、ファルス伯爵子息以外の部下が居るとは驚いた。だが、それなら納得は出来る」
そう言って、顎に手を当てるリオルム総督。
よしよし。何とか納得してもらえたか。
ここで仲間同士で疑り合うだなんて言う、無益な真似だけは避けられて、本当に良かったよ。
すると、背後から傷を押してイグニス副団長が歩み寄って来る。
「先日も会いましたね、シン殿」
「はい。先日は、ありがとうございました」
俺にとって、イグニスは命の恩人だ。
俺は、感謝の心を込めて、イグニスにそう礼を言った。
あの時は、色々と余裕が無くて、まともに礼を言えなかったからな。
「礼には及びません。私はただ、レイン殿下の命に従っただけですので。そして、礼なら私からも……今、救援に来てくれて、ありがとう。君が居なければ、3人の内誰かは確実に死んでいたでしょうから」
そう言って、イグニスは品よく礼をする。
「ああ、それは俺からもな。君が居なかったら、俺普通に死んでたから。まあ、相打ちは取れたかもだけど」
そして、続いてリオルム総督も礼をするのであった。
「……さて。それで、君はこれからどうするのかい?」
「はい。俺は、またここから離脱し、俺にやれる事を……レイン殿下から命じられたことをするだけです」
その後、準備諸々をしている中、問いかけられたイグニスの言葉に、俺はそう返した。
すると、イグニスは「そうですか……」と言った後、こう言う。
「分かりました。お互い、頑張りましょう。生き残れたら、祝杯ですよ」
「俺は酒、飲めないですけどね」
「ああ、そうでしたね。……私個人としては、貴方のような子供が命を懸けて戦うのを見るのは、耐えがたいですが……」
そう言って、顔を俯かせるイグニス。
「そうは言ってられない状況ですし、その道を選んだのは俺ですから」
確かにイグニスの言葉はもっともだ。
だが、その道を――冒険者を俺は選んだんだ。
だから、俺を見てそうは思わないで欲しい。
そんな事を思う俺に、イグニスは「……そうか」と頷くのであった。
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