第二十八話 幹部2人による本気の攻防
ネイアが初撃に放った、空間を潰す魔法――
「ふっ」
「はっ」
「よっと」
それを、彼らは阿吽の呼吸で、互いに邪魔にならないような位置へ退く事で躱す。
刹那、リオルム総督が声を上げた。
「お前らは下がれ! 守り重視だ!」
言外に足手纏いであると告げながら、リオルム総督は続けて詠唱する。
「灼熱の業火。極寒の氷獄――」
「させん!」
だが、当然の様にグーラが10本の漆黒の大剣を飛ばして、妨害をしてくる。
「はあっ!」
「はああああっ!」
しかし、それはまるで読んでいたかのように両者の間に割って入って来たゼーロス団長とイグニス副団長によって、斬り捨てられる。
「読んでた。
「続けてぇ! 壊れろ。崩れろ。砕けろ!」
刹那、斬り捨てられた漆黒の大剣が爆散し、漆黒のオーラを撒き散らす。
そして、続けてネイアの
「守れ、”守護者”――光天蓋」
それに対し、イグニスはS級の
「――凍てつけ、灰塵と化せ、凍土と化せ、焼き尽くせ。我は全てを統べる」
そのお陰で、何とか終わる詠唱。
直後、リオルム総督の右半身に冷気が、左半身に熱気が宿る。
「さて――始めるか」
そう言って、リオルム総督はもう1本の剣を抜き、二刀流となると、”守護者”の
「はあっ!」
刹那、右手の剣を振るうリオルム総督。
すると、刀身から冷気が溢れ出たかと思えば、一気に広がり、広範囲に氷の斬撃を飛ばす。
「空間よ。断絶せよ!」
だが、それはネイアがすかさず展開した
「飛べ!」
そして、流れるようにしてグーラが10本の漆黒の大剣を射出させる。
「凍れ! 灼熱よ!」
それに対し、動いたのはリオルム総督。
彼は再び右手の剣を横なぎに振るって、広範囲を凍てつかせると、そこにすかさず左手の剣を振るい、焼き尽くす。
「……流石に、凄まじいな」
手始めに出していた20本の漆黒の大剣が全滅したことに、グーラは
グルトニア帝国最強の一角、リオルム総督固有の魔法――
「だが、やるか。ネイア、敵の動きは解析した。そろそろ本気で仕掛けるぞ」
「はいはーい。行ってこーい!」
直後、グーラの姿が忽然と消え――
「死ね」
次の瞬間、イグニス副団長の背後に現れた。
「っ!?」
隠密性に特化した、不意の奇襲。
今までの交戦で見せる素振りすら無かった技という事もあってか、イグニスの対処が一瞬――ほんの一瞬だけ遅れる。
その僅かな隙に、グーラが持つ白金の大剣が、吸い込まれるかのようにイグニスの首へと迫り……
ザン!
「危なかったな。イグニス」
「すみません。団長」
そう。長い経験による勘で、反射的に動いていたゼーロスが、寸での所でイグニスの首裏部分の鎧を掴み、後ろへ引っ張っていたのだ。
だが、流石に無傷とまではいかなかった。
「くっ……」
見れば、イグニスが斬る鎧の胸部分が、大きく斬り裂かれていたのだ。
胸にも、薄っすらと横一文字に傷がつけられているのが、目を凝らせば見えて来る。
だが、この程度で戦闘不能になるなど、ありえない。
イグニスは変わらず闘志を燃やすと、自らを斬ったグーラを睨みつける。
「やれやれ。完璧な一撃だったのだが――な!」
刹那、グーラは新たに補充した30本の漆黒の大剣全てを3人目掛けて飛ばす。
「破壊いいいいいい!!!!!」
「くっ そっちは任せた!」
だが、グーラだけに目を向けている訳にもいかない。
そこで、ネイアの攻撃を受けられるイグニスだけは、背を向けるとネイアの方へ突貫していった。
「凍れ!」
「はあっ!」
一方こちらでは、リオルム総督が広範囲を凍らせることで動きを止め、その隙にゼーロスがグーラとの距離を一気に詰める。
「くっ やりづらい!」
緩急のついた、距離感を図りづらい独特の走法にグーラは翻弄されつつも、自身の周りに後方に準備してあった漆黒の大剣20本を追加補充すると、自身を守る様に展開する事で、そもそも近づけないようにする。
「はああ!」
だが、その防衛網をゼーロスはその圧倒的な技量で、やすやすと潜り抜けた。
「もらったああぁ!!!」
「が、はっ……!」
そして、為す術無く腹に刺突を喰らい、風穴を開けられる。
白金の大剣を手放し、吐血するグーラ……だが、自らを貫く大剣を構えるゼーロスの手首を、グーラは万力のような握力で握り締めた。
「ぬうううっ!!!」
どこからそのような力が出ているのだろうか。
だが、そんな事を考える暇も無く、ゼーロスは焦ったような表情を浮かべると、身を退こうとする――だが、退けない!
すると、グーラの口元が、まるで三日月の様に弧を描いた。
そして、言葉を落とす。
「1人は、持ってくぞ」
刹那。
「がはっ!!!」
ゼーロスの身体を、無数の漆黒のレイピアが貫いた。
「ぐっ 凍れ!」
一瞬の出来事に、漆黒の大剣の対処をしていたリオルム総督は声を上げると、即座に氷結攻撃を、一直線に放った。
「ぐっ!」
当然あの状態のグーラが避けられる訳も無く、後方へと吹き飛ばされていく……が、次の瞬間、ネイアの転移魔法によって、ネイアのすぐ横に転移させられる。
「ぐ、ふっ……」
「グー君。いくら作戦って言っても、ひやひやしたよ~~~あははっ!」
イグニスと膠着状態となっているネイアはそう言って嗤うと、ポーションを放り投げて雑に治療を施す。
「はぁ、はぁ……流石に消耗が激しいな。筋力強化の薬も、もう使ってしまった。お陰で後が無い。そっちは?」
「こっちはまだ使ってな~い。けど、魔力の消費が半端ないよ~。でも、こうでもしないと抑え込めないからね~」
「そうか。薬の使い時は、絶対に見誤るな」
「おっけー! 破壊しろぉ!」
そう言って、ネイアは引き続き魔力を湯水の如く使った、魔力消費を一切考えない攻撃を続けるのであった。
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