第二十七話 トラップ部屋を、大破壊

「ほうほう。ここは派手に破壊出来るのだな?」


 すると、後方から1人のローブを羽織り、杖を持った魔法師らしき若い女が、そう言いながら姿を現した。

 ん? もしかしてあの人は――


「久しいな、マレーネ隊長。このトラップ部屋を、いい感じに破壊してもらえば問題ない。流石に、数が数だからな。普通に解除するのは骨が折れる」


「おけおけ、リオルム総督。いい感じに破壊しちゃるよ」


 ああ、やはりマレーネ伯爵だったか。

 伯爵家当主兼魔法特別隊隊長(仮)で、本職は破壊神とまで言われた彼女であれば、何とかなる……と思いたい。

 何分、相手に圧倒的実力者のノワールが居るせいで、こちらの想定が殆ど意味を為さないから、分からないんだよなあ……

 だが、そんな事など知らぬとばかりに、マレーネ隊長はずんずんと前へと向かうと、詠唱を唱えた。


「――万物を破壊せよ! 灰燼へと帰せ! 無の大地!」


 5分間以上にも及ぶ、長い詠唱を経て、発動する魔法。

 直後。


 ドドドドドドオオオオオオン!!!!!!


 圧倒的な破壊の嵐が、トラップ部屋に襲い掛かった。


「ちょ、無茶だ――があっ!」


 トラップ部屋の管理として残されていた数人の構成員も、予想通り見事に破壊の嵐に巻き込まれ、原型すら残さず死んだ。


「……化け物やなぁ」


 これには、俺もスライムを爆破範囲外に緊急避難させながら、謎に関西弁でそんな言葉を零すのだった。


「部屋を壊さず、トラップだけを壊すとは。これなら大丈夫そうだ……と言いたい所であるが、さっきみたいに油断させてから一気にぶち壊す系のトラップがあるかもだから、油断できないな……」


 今のでトラップのほぼ全てが機能停止に追いやられただろうが……さっき、窮地に陥った瞬間にとんでもない魔法を発動させようとしていた奴らの事だ。

 絶対ここにも、何かある。


「……よし。探知班を前線へ! 他に何か無いか、徹底的に調べろ!」


 どうやらそれは、向こうも同じ考えのようで、只今連合軍の指揮を執っているリオルム総督は、大声を上げてそのような指示を飛ばした。

 その指示に従い、探知の準備が急ピッチで進められる中、俺も大きなトラップ部屋にスライムを送り込むと、彼らでは調べられなさそうな細かい場所を調べていく。

 だが……


「無い、な」


 まさかの、マジで何も無かった。

 何だか、肩透かしを食らった気分だ。

 まあ、あるよりは無い方がマシだから、別にいいけど……


「順調過ぎて、怖いなぁ……」


 何の問題も無く、奥へと進軍していく連合軍を見ながら、俺はそんな言葉を零すと、レイン殿下へ連絡を飛ばす。


「レイン殿下、シンです。トラップ部屋は難なく、突破出来たようです」


「そうか。……残るはもう、幹部2人とノワールだけか?」


「それで、間違いないかと……」


 レイン殿下の問いに、俺はそう答えた。

 残る敵は3人。対するこちらは、総勢3000以上。しかも、有象無象では無く、皆普通に精鋭。

 ただ、それでも……


「不安はやはり、拭えないね」


「そうですね」


「ああ。だが、やるしかない。……引き続き、頼んだよ」


「承知しました」


 そうして話を終えた俺は、スライムとの”繋がり”を切ると、今度は残る2人の幹部――グーラとネイアに意識を向けるのであった。


 ◇ ◇ ◇


 時は、少しだけ遡る。


「……凄まじい破壊音がしたね。グー君」


「十中八九、魔法特別隊隊長のマレーネだろう。あの破壊神であれば、トラップを何もかも破壊する事も、不可能では無い」


 目を見開くネイアの言葉に、グーラは冷静にそう言って頷く。


「……そしてこの様子、恐らくトラップ部屋を突破されたな」


「ええ……もしかして、今の破壊で奥の手まで全部吹っ飛ばしたの? ギル君お手製のトラップ部屋が?」


 ギル君……今は無き幹部ギルオが遺したトラップ部屋が何もかも駄目にされたと知り、ネイアは更に驚きの声を上げる。


「それより、準備しろ。もう直ぐ来るぞ。今までの様に、生存を第一に考える必要は無い」


「だねぇ。お、噂をすれば、来たみたいだよ」


「……だな」


 やがて、騒がしくなっていく大通路。

 ノワールの下へ行くには、避けて通れないその道へ。

 連合軍が、姿を見せるのであった。


「……貴様らが、最後の幹部。グーラとネイアか」


 予め、この先に2人の幹部が居るという情報を渡されていたせいか、そんな言葉を口にするリオルム総督の背後には王国近衛騎士団団長ゼーロス、副団長イグニスが立っていた。

 他にも彼らに匹敵する精鋭は居るが、彼らにはノワールとの戦いで全力を出して貰いたいという事と、純粋に相性の問題から、出されていない。

 それでも、帝国最強格と王国最強格が居るのは、中々に絶望的だ。

 だが、グーラとネイアの2人に撤退の2文字は存在しない。


「……ああ。俺が筆頭幹部、グーラだ」


「はいはーい! 皆大好き、幹部のネイアだよ~!」


 グーラは無骨に言い、ネイアは無邪気に笑いながらそう言った。

 そんなネイアに、肩透かしを受けたような顔をする連合軍……だが、精鋭中の精鋭である3人に、油断の表情が現れる事は無かった。

 それどころか、無性にイラァとしている。


「……問答は無用。時間が惜しい。さっさとやり合おうぞ」


 そう言って、大剣を構えるのはゼーロス団長。

 好々爺とした普段の表情から、一転して闘気を漲らせながら、今にも斬りかからんとしている。

 そんなゼーロス団長を見て、リオルム総督とイグニス副団長もそれぞれ剣を構えると、2人を見据えた。


「……やろうか」


 どの道、時間稼ぎは無意味だと分かっているグーラは、それ以上の時間稼ぎはせずに、予め用意していた大量の漆黒の大剣の中から、20本を自身の周囲に浮かべると、自分自身は本来の得物である白金の大剣を背中から降ろし、構えた。


「いいね。それじゃあ――潰せ潰せ潰せ」


 直後、両手で2本の短剣を持ったネイアが、空間を潰し、戦いの火蓋が切られるのであった。

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