第二十五話 炎の祭壇

「かかれえ!!! 奴らは死兵だ!」


「「「「「”祝福ギフト無き理想郷”の為に!!!!!!」」」」」


 対面した途端、両者一斉に攻撃を始め、場は一気に混戦状態になる。


「死ね!」


「「がはあっ!!!!」」


 精鋭の帝国騎士が剣を横なぎに一閃する。

 それだけで、2人の胴が同時に両断された。

 いくら薬物過剰摂取オーバードーズで無理やり肉体を強化してるとは言え、それだけで埋まる程の差ではない。

 だが――奴らは”死兵”なんだ。


「「「うがあああ!!!!」」」


 ドオオオオオオン!!!!!


「なっ……」


 胴を両断され、地面へ無様に落ちながらも、奴らは自爆装置を起動し、自分諸共帝国騎士を爆破した。


「が、ごほっ ごほっ……」


 だが、流石は帝国騎士――それも、ここへ送り込まれた精鋭。

 見事に防護し、完全にとはいかなくとも、防いで見せた。

 しかし――その隙を”奴”が逃さない。


「死ね」


「がっ……!」


 炎を最小限に纏い、遊撃に特化させたのであろう敵幹部のザイールが、すれ違いざまに短剣を振るって、帝国騎士の首を刎ねた。


「ふぅ。まずは1人」


 そう言って、右の短剣に付着した血を振り払うザイール。


「敵幹部、ザイールか」


 そんなザイールを視界に収めたリオルム総督は、剣を構えるとザイールとの距離を一気に詰める。


「お前と直接戦う気は、無い!」


 だが、ザイールは味方である構成員を盾にしながら、素早くリオルム総督と距離を取った。


「「「「死ね!!!!」」」」


 刹那、リオルム総督へ襲い掛かる、ザイールが盾にした構成員4人。


「ふっ!」


 それを、リオルム総督は一呼吸で鎧袖一触し、胴を両断して見せた。

 胴を両断され、臓物や大量の血を撒き散らす構成員。

 それらを、煩わしそうに見やるリオルム総督――だが次の瞬間、異変に気付く。


「なっ……これは?」


 リオルム総督を突如として襲う、全身の痺れ。

 何が起きたのかと、一瞬で思考を巡らせるリオルム総督。

 やがて、1つの結論に辿り着く。


「まさか……血か!?」


 そう――構成員が撒き散らし、リオルム総督を汚した血だ。

 よくよく見てみれば、色が普通のそれでは無い。


(おいおい。まさか、血を錬金術で毒にしたって事か? いくら死兵でも、限度があるだろ!)


 そんな事をすれば、どれだけ手を施していても1日と持たず息絶える。

 それを平気でやっている事に、リオルム総督は内心悪態を吐きつつ、大きく後ろへ下がった。


「治療を。毒やられた」


「了解!」


 そして、短く回復術師に状態を説明すると、治療をしてもらう。

 当然手持ちには、いくらかのポーションがある――だが、今使うべきところでは無いし、使ったとて、この毒には効かないと直感で悟ったのだ。


「炎よ、爆ぜよ。爆ぜよ爆ぜよ!」


 一方、リオルム総督から逃走する事に成功したザイールは、構成員によって多少なりとも消耗した帝国騎士や魔法戦士目掛けて、必殺の爆炎を放った。


「「「障壁よ、守れ!」」」


 即座にそれらの背後に待機している魔法師たちが、防壁を展開して防ごうとする――が、相手は残る2人の幹部には劣るとは言え、祝福ギフトが低級の身でありながら、王国の精鋭と互角以上に渡り合った男。

 故に――防ぎきれない!


 ドオオン!!!

 ドオオン!!!

 ドオオオオオオン!!!!


 いくつもの爆発。

 そして、それに巻き込まれ、死に絶える

 そう――ザイールは死にかけとはいえ、構成員すらも躊躇なく、爆殺したのだ。


「なっ……!」


 想像以上の――執念。

 それを垣間見た帝国軍には、驚愕――そして、僅かながらにも怯えの表情が見えた。

 だが、そんな彼らを戦線へ即座に復帰したリオルム総督が、一喝する。


「お前ら、狼狽えるな! どうやってもこのペースで行けば、そう時間をかける事無くやれる!」


 リオルム総督の言葉は、正しかった。

 現に、100以上居た構成員は、ものの10分弱の交戦で半数にまで減少している。

 帝国軍側にもいくらかの犠牲は出ているが、それでも軽微。

 それに、後方から続々と王国、共和国等の精鋭が来て、安全圏から魔法を放って攻撃しており、敵方の消耗ペースがより一層早くなることは、火を見るよりも明らかだ。


(だが……だからこそ、なんか怪しいな)


 突入する際にトラップ等が無いかの確認はしてある。

 当然だ――もし、この部屋ごと爆破でもされたら、洒落にならないからだ。


(普通であれば、バレた瞬間外から起爆されて即終了故にやらないが……こいつらなら、絶対にそれか――それに準じたがあるな……)


 戦闘を続けながら、リオルム総督は部屋を隅々まで見やる。

 絶対に、何かある筈だ。

 そんな、帝国総指揮官としての勘の下、隅々まで見続けた結果――敵の数が20を下回った所で、ようやくある事に気が付いた。

 それは――


「奴らが流す血……まさか、魔法液か!?」


 そう。構成員が撒き散らす血――その一部に、魔法陣を描く際にインクとして用いられる魔法液が含まれていたのだ。

 リオルム総督は咄嗟にその魔法液へ魔力を流し、解析する。


「これは……!? マズい、退避! 防壁の展開を急げ!」


 血と共に飛び散った魔法液が、何を描いているのか。

 それを、ザイールの所々違和感のある動きも参考にした結果、解ってしまったリオルム総督は、即座に退避と防壁の展開命令を出す。


「くっ……これに気付くのかよ! さっき急ピッチで準備した、俺のとっておきなの――に!」


「「「「「がはっ!!!!」」」」」


 そんな彼らを見て、ザイールは悪態を吐くと――なんと、残る味方を殺害した。

 残る構成員も、その様子を見るや否や、躊躇う事無く自死を選択する。


「さあ――死ね。”偽現・炎の祭壇デミ・フレアオルター”――”起動ブート”!」


 それを持って、”主”の秘儀――”祭壇”を、自分なりに改造した魔法の設置が完了した。

 刹那、ザイールによって起動される、偽現・炎の祭壇デミ・フレアオルター


 ゴオオオ!!!!


 地面に映し出される魔法陣――そこから産声を上げた莫大な炎が、突入してきた連合軍を焼き尽く……


「……え?」


 ……さなかった。

 逆に、炎はまるで魔法陣を逆流するかのような挙動を見せたかと思えば、発動者であるザイールに襲い掛かったのだ。


「な、なあ!?」


 それを見て、ザイールは即座に魔法を緊急停止する――が、遅かった。


「がああっ!!!」


 ザイールは全身を焼き尽くされ、瀕死の重体となって地に伏す事となる。

 そして、その様子を――


「……ふぅ。危なかった。何とか、間に合ったか」


 誰よりも戦場を俯瞰していた少年が、安堵の息を吐きながら、見ているのであった。

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