第二十四話 最終決戦の幕開け
「始まった……か」
森中に配置してあるスライム越しに、俺は”
遂に、世界の命運を決める戦いが始まったのだ。
……あー地味に緊張する。
逃げても無意味。退路の無い戦いは、流石に趣味じゃないんだよなぁ……
俺は基本的に、撤退の余地がある戦いしかしない訳だし。
……まあ、ヘマして逃げられない戦いをし、ボロボロになった事もあるのだが。
「おっと。そんな事はさて置き、俺はとにかくこの戦いの全てを見ないとな」
少しの異変も見逃してはならない。
もしかしたらそれが、突破の鍵になるかもしれないから――
「まあ、とは言っても流石にそれは簡単だ」
こちとら、十数個もの街を同時に監視してのけたんだぜ?
この程度余裕で出来る。
「それよりも、すべき事は――支援だ。上手く敵を削り、なるべく楽に倒せるようサポートしないと」
そう言うと、俺は突入部隊が動き出した事で、内部の配置に変化が起こっていないかを、あらかじめ各所に隠しておいたスライムを用いて確認する。
「……あ、なんかザイールだけ前線に向かってね?」
そしたら、なんと3人居る幹部の内、ザイールだけが前線へと向かって駆けていたのだ。因みに残る2人――ネイアとグーラは、”祭壇”へと続く大廊下の中心に陣取っている。
「んー……ザイールは俺でも初見殺しすれば倒せる程度だし、2人の足手纏いになる可能性が非常に高い。だから、前線へ向かわせて、部下を盾にしながら少しでも削って貰おう……といった感じか?」
俺はそのような予想をしつつ、レイン殿下に連絡を送る。
「レイン殿下。シンです。報告があります」
「そうか。報告を」
そこには、レイン殿下以外にも多くの人が居た。
まあ、従魔越しに連絡をするのは割とよくある事と言うのもあってか、特に疑問を持つ者は居ないようだ。
「はい。調査した結果、どうやら幹部の1人、ザイールが前線へと向かっているようです」
「……そうか」
俺の言葉に、レイン殿下は冷静にそう言って頷いた。
そんなレイン殿下の背後では、俺の言葉に目を見開いたり、どう対処すべきか思案している人で溢れている。
動揺するような人は居ないし、皆結構優秀そうだな。
上から目線な言い方にはなってしまうが、期待できる。
「よし。前線に今すぐ伝令を送れ! 恐らく遊撃が目的だ!」
「はっ!」
そして、レイン殿下は即座に部下へ伝令の指示を飛ばす。
てか、なるほど。遊撃か……
俺の考えも、あながち間違いでは無かったな。
流石に遊撃という言葉がパッと思い浮かぶことは無かったが……ね。
「では、報告ご苦労。引き続き頼んだ」
「承知いたしました」
レイン殿下の言葉に、俺はそう言って頷くと、”繋がり”を切るのであった。
「さてと。一先ずの報告も終わったし……やるか」
俺と言えば、スライムを用いた溶解戦法。
数多のスライムを使う事で、耐性の無い者は一瞬で頸椎や脳を溶かされるという凶悪なものだ。
だが、まだ使わない。
「どうやらまだ、俺のスライム戦法はバレてないようだからな」
荒唐無稽過ぎる戦法というせいもあってか、今だに俺が大量のスライムを用いて諜報や監視、暗殺をしているとはバレていない。それは、敵方の行動を見れば明らかだ。
なら、クスリでキマってる連中は、混戦時の混乱に乗じて、ひっそりと足の健や頸椎を溶かして支援する方針で行こう。
そして、その戦法をさせてくれないのがザイールだが……それくらいは、連合軍にやって貰うとしよう。
先ほどチラリと見てみたのだが、連合軍は普通に精鋭揃いだった。どうやってもザイールじゃ、時間稼ぎ程度にしかならない。
残念だが、それが実力の差というものなのだ。
「じゃ、暫くはアジト内の監視を継続しつつ、連合軍の動向に注視するとしようか」
そう言って、俺は連合軍の動向が良く見える位置に居る、アジトの入り口付近のスライムへと、視覚を移すのであった。
「リオルム総督。アジト内部へと続く通路が、只今完成したようです」
「そうか。ご苦労だったな」
連合軍の最前線にいるのは、軍事大国グルトニア帝国の精鋭部隊か。
突入するのであれば、やはり戦争続きで、突撃に慣れているグルトニア帝国が適任だわな。
「よし。お前たち――俺に続けええ!!!」
「「「「「「うおおおおおお!!!!!!」」」」」」
すると、金のメッシュが入った黒髪軍服姿の男――グルトニア王国の総指揮官であるリオルム総督が、なんと先頭に立ち、剣を構えて駆け出した。
そして、そんなリオルム総督に置いてかれるものかとばかりに、魔法戦士部隊と帝国騎士団の面々が雄叫びを上げながら駆けて行く。
「おー……これが戦争をよく知る人間の特攻か。すさまじいなぁ……」
普通に気迫がえげつないなと思いながら、俺は適当な人間に超ミニミニスライムを引っ付けて、後を追わせた。
そして、アジト内部に侵入した途端、俺はアジトの天井に居るスライムに視覚を移す。
「始まり……だな」
遂に対峙する両者を上から俯瞰しながら。
俺はそう、呟くのであった。
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