第4話


 邸から一旦外に出て、パワードスーツが放棄された庭園を通り抜けて森の奥へ導かれた。

 獣道のような細い足場を辿り、森の拓けた場所へ辿り着く。

 そこには朽ち果てた廃戦車が放棄されていた。

 庭園のパワードスーツと同じような傷跡が刻まれている。戦車主砲の砲身はひしゃげ、とても強い衝撃で折れ曲がったのだと瞬時に理解した。

「え――」

 歪な戦車の脇に、幾重もの鎖で縛りつけられた青年がいた。

 青年は上裸で、隆々しく発達した筋肉が丸見えだ。身長も三メートルはありそうな体格の大男であるが、うな垂れた顔貌からは精悍さも感じられた。

 見たこともない亜人種である。――否、人間か?

「この男、巨人……? でも」

 男からは巨人の特異的な身体所見が認められる。

 例えば、その三メートルに及ぶ体躯。だが、肩部の筋骨格は巨人ほど張り出していなかった。頭部もその巨躯に比して小顔である。

 巨人は四肢が比較的短く肩幅が広いため、丸みを帯びた胴体だ。

 青年は人間と同様の四肢バランス――あるいはそれ以上に四肢が長く、スタイルの良い大柄の人間のように見えた。

「隷血らしいのよねぇ」

「隷血種? 人間と巨人の混血は遺伝的相性で不可能だと聞きました」

「人間と巨人は、ね? ――巨人と獣人の隷血は山脈の向こうではよく見られるし、獣人と人間も可能でしょう。解剖はできないけど、この男には獣人の血も挟まってる。耳も尖ってるし」

「巨人と獣人と人間との、三種隷血……」

 前代未聞の隷血種だ。

 彼は生まれながらに三種族から忌み嫌われた存在。

 鎖にかけられた強靭な肉体からは、その在り方が映し出されていた――。


 隷血種は、混血した種族の特性を引き継ぐため、環境適応力や身体性能が高いことで知られている。

 当然、軍事利用も検討された。

 その研究により、巨人との交雑では胚が得られないことが証明され、また獣人との交雑も、人間を母体とする場合では出産に耐えられないことが判っている。

 試験管ベビーが造れるほど、ミザン帝国の生殖技術も進んでいない。

 すなわち、この男は、巨人と獣人の隷血種の女が、人間の男に愛された末に生まれた奇跡の個体と云える。

「ルイス駐屯地はこんな秘密兵器を……」

「あはは。秘密兵器? まだ利用できる段階じゃないわ」

「生かしているのはその為では?」

「そうね。それはこれから次第。あなたの任務も、この男の餌やりよ」

「は……」

 リメイは耳を疑った。

「少佐、お言葉ですが」リメイは唇を噛んで理性を保つ。「この隷血に餌を与えることに不満はないです。ただ、それを任務と言われると……他の任務が甚だ侮辱されるようで腑に落ちません」

「え? 他に任務なんてないけど?」

「…………」

 リメイは言葉を失い、ただ上官を見返すしかできなかった。

 それを了解と履き違えたハダルがウインクを返す。

「私からの指令はこれだけ。ちゃーんと餌付けしといてね」

「はぁぁああああ?」

 軍の落第生への風当たりは、やはり酷いものだった。

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