召喚魔術の闇

 今日は月が綺麗ですね。

 王城の屋根を歩いていて思いました。

 相変わらず異世界の者は魔力の扱いが上手です。

 最初に召喚した三十人を選定して十人へ、それから選定するのは大変でした。

 国王陛下はよく無茶なことを言いなさる。今回は強い者を作り出して戦争に送り込むですからね。

 そして今回召喚した四人は格別でした。

 魔力操作も適正も全て前の駄作を越えました。

 今日であれだけ伸びればもう十分です。次のに召喚される者はより強力になるでしょう。そうやって繰り返せばあのアメリア帝国やカルバン帝国を屈することが出来ます。

 この素晴らしい計画のために私は異世界の者が寝ている部屋に来ました。

 やはり魔力の扱いがどんなに上手でも寝ているときは無防備になりますね。

 こちらとしては好都合です。

 魔力も感じませんし私は隠密を使っています。気づかれることは無いでしょう。

 私は腕に魔力を込めて髪が短い女に近づきます。

 無属性魔法はとても便利なもので多少なら神経に干渉できます。それを利用して生け捕りにするのです。

 では異世界の者たちこの国の栄華と発展のために人柱となってください。

 女の首に手を当てようとした時でした。


「てめぇ莉央に何やってんだ」


 隣で寝ていた男に手を掴まれた。


§


「なっ私の隠密は完璧だったのにっ」

「そしたら分かりやすく魔力まとうなよールルちゃん」


 まだ寝ているときは魔力感知を使えないがあれだけ分かりやすく魔力を出したら異変に気付く。


「しょうがないですね。ここで皆さんには眠ってもらいましょう」


 ルルが身体強化を使って俺たちを気絶させようと床を蹴る。

 俺の首に手刀が迫った。

 だが、数の利はこちらにある。


「ルルちゃん俺らのことナメすぎ」

「っ!」


 涼雅が手を掴み床に叩きつける。


「がはっ! くっ起き上がれない!」

「当然だろ。俺たちの魔力を叩きつけてるんだから」


 無属性魔法は凡庸性があって使いやすい。だからこのように魔力を重力のようにして押し付けることも出来る。


「全ては国王陛下のために!」


 ルルがそう言うと背中に魔術陣が現れ無数のナイフが俺たちの方に飛んできた。

 魔法による拘束も解けてしまった。

 これが魔術か? 属性魔法にも無属性魔法にも属さないであろうそれは避けると追尾してきた。


「生け捕りとにしろと言われましたが良いでしょう! 生きていなくても召喚自体は行える!」

「ルル。どういうことだ?」


 身体強化を使用し、ルルに肉薄する。

 だがそれはナイフによって阻まれた。

 召喚魔術には人が必要だったのか?

 とりあえずルルから聞き出そう。


「私たちのことを忘れて欲しくないわね」


 氷華がルルの背後に回り水属性の魔法を打ち出す。

 魔力によって圧縮した水がルルの背中を穿つ。


「う"っ。魔力を感知できなかった……なぜ!」

「異世界人は魔力の扱いが上手なんでしょ」


 それに追随するように莉央が土属性の魔法でルルを床に縛り付ける。


「ナイスだ氷華。莉央」


 二人を労ってからルルに問う。

 いつの間にか魔術陣は消えていた。


「ルルちゃんもう攻撃しないのかい?」

「魔力切れよ。あんたたち覚えときなさい。たとえ異世界人だとしても魔術は魔力の消耗が激しいわ。せいぜい頑張ることね」

「有益な情報をありがとう。ルル」

「感謝される筋合いはないわね。だってあなたたちもここで死ぬのだからっ!」


 魔力切れというのはブラフだったようでルルの中心に魔力が集まる。

 莉央の魔法が霧散し、ルルが俺たちの方に走ってくる。

 自爆だ。


「お前ら魔力障壁を張れ!」


 涼雅が叫んだ。

 刹那、視界が白い光に染まった。



「……ぐっ」


 次に目が覚めたとき身体中に鈍い痛みが走った。

 どうやら防ぎきったようだ。

 頭がジンジン痛むのは傷がついたからだろう。


「涼雅。氷華。莉央無事か?」

「大地……」


 涼雅と氷華がこちらを見ていた。

 妙な胸騒ぎがする。


「莉央は……? どこにいる……?」

「大地。すまねぇ。守りきれなかった……」


 涼雅が俺の後ろを指差した。

 そこには――


「嘘だろ……」


 ――片腕が失くなった莉央がいた。


「莉央……?」


 ギシギシと悲鳴をあげる体を無理矢理動かす。


「返事をしてくれ」


 返事は無い。そりゃそうだ彼女は喋れないのだがら。

 そんなことさえわからないほど俺は混乱していた。


「ルルのやつめ。失敗してしまったか。まあいい。厄介な異世界人の弱体化に貢献したのだ。ギルバール、魔術陣のところにこいつらを連れていけ」

「はっ。お言葉ですが一人既に虫の息のようですがよろしいのですか?」

「霊薬でも使っとけ」

「はっ」


 ギルバールはポケットから液体の入ったビンを取り出し莉央にかけた。

 みるみるうちに腕の傷が治り、血色が良くなった。


「おい大地! 呆けてるんじゃねぇよ!」

「黙れ。お前らは早くも国王陛下の役にたつのだ。泣いて喜ぶがいい」


 ギルバールが指を鳴らすと体の芯が抜けたように座り込んでしまった。

 もう一度指を鳴らすと勝手に体が動き出した。


「どうせお前らも死ぬのだから言ってやろう。召喚魔術は人を対価とする珍しいものだ。そして強い者を対価とするとより適正のある異世界人を召喚できるのだ。今までは最初に召喚したストックを使っていたのだがね。お前らが来たから残りの異世界人はもう殺したよ」

「なっ!」

「喋るな。さあここだ」


 そこは血のように赤い魔術陣が書かれていた。

 魔術陣の中央には四体の死体があった。

 こちらを向いている死体と目が合う。

 ちょっと前に失踪した顔だった。

 


「父さん……? 母さん……?」









第一話を加筆しました。

ちょっとこの話しに関わるのでもう一度読んでください。最初のちょこっとです。

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