これが日常である(受李編)
これが『娘』と父の最後の親孝行
「受李は何のゲーム機が好きなんだい?」
「え……」
受李は自分の父 務の質問に困惑した。好きなゲーム機…それは、受李にとっては、あんまり身に覚えのないことであった。
「どうしてこんなことを言うの?」
「……どうしてだろうな」
と言い、務は上の棚のゲーム機を見上げた。
「……多分だけど、全然、受李に親孝行をしていなかった。からかな」
「え?」
「だって、僕……長い出張であんまり顔を合わせてなかったから……」
そうして言うと務は傷だらけの受李の目を合わせた瞬間、受李を軽く抱きしめた。
「え?」
「本当に……ごめんな」
実は受李は元は虐待をしていた。前まで仲良くしていた母親が《能無し》のことを専用の科学者がそう言ったあの日以来に母が変わり、暴力を振るうことが多々あった。
「消えろ」「死ね。能無し」などと酷すぎる暴言を言われていた。それは親戚の人からも受李に同じことをしたのだ。だが、妹の意吏に対しては能力があったことが良かったのか受李よりも十分な食事に衣服、なんと言うか受李より意吏の方が溺愛をしているような態度であった。務は受李が虐待をしてるのは薄々気づいていたのだ。それを確信にしたのは使用人が受李を殴っていることを見てしまったのだ。その直後に使用人を一発殴ってから受李を引き離し、車で数百キロも離れたところでゲームショップに受李の好きなゲーム機を買おうとしてた。
あいつら……よくも受李を……それなのに気づかない僕は……自分の無力を感じてしまい務は悔しさのあまりに握り拳を固くすると
「父さん?」
「ん?」
「大丈夫?怪我を……しているの?」
と受李が心配そうに務を見つめる。誰よりも一番怪我をしてるのは受李のはずなのに、まるで自分は平気のような態度であった。それを見てしまった務はここまで暴力を振るってたのかと母とあいつらを酷く憎んだ。
「父さん、病気?私、何か悪いことをした?」
「ううん。ただの妄想をしたよ。大丈夫だよ。そんな事より、早くゲーム機を選んでごらん」
「うん……」
と受李は上にあるゲーム機を見上げた。そのゲーム機、家の中にいるよりもキラキラと光っていた。色んな種類もあり、どれも手が出そうなものばっかりだった。
「欲しいな……」
と受李の小言が零れた。すると
「ひっ……」
突然受李が後ずさりをして座り込んだだ。あまりのことに務は驚き焦り、受李に近づいた。
「受李、どうした?」
さらに
「ハァハァハァ……ヒュー、ヒュー、ヒュー……」
と受李の呼吸が浅くなっていくのだ。
「まさか…」
務は睨んで受李の首元を確認した。
「やられた!」
受李の首を見ると禍々しく呪詛のような痕があった。実はなんとあいつらは受李が万が一逃げてしまわないように呪詛をかけたのだ。
「あいつら……」
務はあいつらの怒りでいっぱいであった。いっその事、あいつらを殺したいほどに……。
「と……父さん……」
「!」
「これ……どうしよう……私……また、みんなに怒られる……」
と受李の目尻には涙で溢れてた。ここまでにも受李が弱まっているのは初めてだ……。受李は元は強いが無気力な子だった。なのにこんなにも弱々しく、自分はダメな子だと思い込むような子になってしまった。
「………」
務はあいつらに対する怒りでより一層増した気がした。許せない。ただこれだけが頭によきる。だが、その同時に自分はこんなにも無力なのかと後悔の念があった。自分はこんなにも無力なのか、あの時の出来事が嘘のように泡へと化すようになっていく。だけど
「受李、落ち着いて」
「……え」
「僕が助けるからな。目を瞑ってくれないか?」
「……(ぐずっ)うん」
と務は受李を抱きしめ、首の呪詛を解かす。一つずつ、一つずつ、一つずつ…重なってた呪詛を解けていく際に務は
「案外チョロいもんだな」
「え?」
実は務は昔、
「(その実力を買ってた上に面白いからって親友に言われたな……)ほら、出来た」
「あれ?息が出来る…」
受李は呪詛が解けた首に触れる。呪詛があった時はビリリ!と電流が入ってて、凄く染みるほどに痛かったのに……痛くないのがまるで嘘のように無くなっていた。
「すごい……痛くない」
「僕が怒らない魔法をかけたからね。今日は特別だよ」
「ありがとう、父さん!」
「さ、好きなのを選んでごらん」
「うん!」
と受李は嬉しそうに棚を見た。キラキラとしているゲーム機の並び。それに目を輝かせると
「ねぇ、これなぁに?」
受李の移し目が止まった。
「ん?」
務は受李の目線に合わせていたら、黒でスマホのようなのが見合った。
「これかい?」
「うん」
務は受李の言う通りにスマホのようなのを取ると
「ああ……これか……」
そのスマホのようなのは
「これが欲しいの?」
「うん」
「値段は二万ちょい…か」
と務はゲーム機を持ち上げた。
「次は………ゲーム機のソフトか。受李、好きなのを選んでいいぞ」
「うん!」
受李が嬉しそうにゲームソフトのコーナーを走っていく。務は受李に引き込むかのようにソフトのコーナーに足を踏み入れようとした。その時
ピリリ…ピリリ…
「ん?」
「父さん…どうしたの?」
「ううん。ちょっと会社から、受李は見てきていいよ」
「うん……」
と受李は少し寂しそうな顔でゲームソフトのコーナーに向い、務はスマホを取り、着信をした。
「どうした」
『俺だ。休みのところすまない愛川……』
「それよりも何があった?様子からして危ないようだな」
『それが……あの最大級の化け物が山奥にいたんだ!』
「…!!!!どういうことだ!?」
『俺らも聞きてぇところだ。』
務は声を上げた。嘘だろ!?最大級なんて俺らが全て討伐したんじゃ……!?そう、務はあの時、仲間も共に全て倒したのだ。だが、十年の時を超えてもその化け物はその山奥に見つけたのだった。
『今んとこ、調査員が見てきたら、その化け物は寝ているが…今起きても違和感ない様子らしい。行けるか?』
「……ごめん。しばらくだが少し待っててくれないか?」
務は少しだけを考えてそう言った。理由は何もなく受李のためだからだ。
『は?どういう事だよ…』
「今、娘と買い物をしてるから…それで行けなくなって」
『なるほど……。思い出作りですか……』
「まぁ……そんなとこだ」
『妻さんは?そいつもいるんだろ?』
「あ……」
『ん。どうかしたのか?妻さんと喧嘩?』
「それが……」
務は受李が虐待を受けていたことを伝えると
『何!?虐待だぁ!?』
「うるさいぞ」
『あ、あぁ……すまない、すまない』
とスマホから来る大きな声から小さな声に変わったのを機に務は耳を塞ぐのをやめた。
『だから愛川、少し戸惑ったのか……』
「それは誰だって同じだろ…」
『ははは…そうだな…』
「それで俺は受李を強引に引っ張って…今の受李はおもちゃを嬉しそうに見ている」
『……』
「どうかしたのか?」
『なぁ、愛川…。これはあくまで俺の推測だが…』
「?」
『多分……』
と務は同僚にある推測を告げられる。それを聞いた務は驚いて
「何!?それは本当か!?」
『まぁ……一部ではそんな感じの奴らがちらほらいるんだよな……どうかしたのか?』
「いや……本当かどうかを疑心暗鬼をしてだな…」
『そりゃ、俺だって疑うわ。ま、信じるのも愛川、お前次第だ』
すると、務が
「……確かにその可能性はありそうだな。だがたとえ、受李が能無しだろうがなんだろうが…受李は俺の家族であり、何より俺の娘だ。そして、虐めている娘を助けるのが父親…だろ?」
するとこの務が珍しいのか『あはは』と同僚の笑い声がスマホ越しに聞こえた。
「ん?どした?」
『あんたが、そんなことを言うとは思わなかったよ。すごく変わったな……って、前だったら、絶対に虐めるのは当たり前とか言いそうじゃん』
「あんた、俺のことそんな風に見てたのかよ
」
『え?違うの?』
「違うわ」
同僚が勘違いを務はつっこむ。すると務はとても迷っている受李を見てると少し安心をした顔をしている。
『世はその受李ちゃんと一緒に逃走中ってわけか』
「ああ、そんなところだ。そのためホテルも、食料も探しているが……まぁ、今は忙しいと言ってもいいだろう」
『そっか……じゃ、しばらくは俺たちだけで様子見しとくわ』
「本当にすまない……」
『いいってもんよ。受李ちゃんを守るためだろう。それだったら、お前の指示に従うさ』
「ああ、ありがとう」
『いいってもんだよ』
務は思った。本当に親友みたいにな奴がいて本当に良かったのだと。それに親友は今、どこにいるのだろうか……。
『それじゃ、切っとくよ』
「ああ」
電話はここで切り終わり、務はスマホをポケットにしまおうとしたが…
「一度、試してみるか……」
と務はスマホにあるサイトを出した。それは異世界人を雇わせることが出来るサイト。このサイトを務は疑問を抱いていたが、雇い主の中には能力のない子や孤児を雇わせている異世界人もいるらしい。
「もし、その異世界人が受李を受け入れられるのなら」
務は痺れているのか震えてる左手を見つめる。実は務も受李と同じく呪詛を左手にやられているのだ。しかも、難易度の高いやつ。
「結構ヤダなのに……」
この呪詛を解呪するのに結構時間はかかるといわれている。だが、務は気にしてはならなかった。
「あいつと比べりゃ…何ともないわ」
そう受李である。きっと、受李は務よりもこんなにも苦しんでいるはずだ。母や親戚の人にも虐められ、あげての果てには捨てられる。きっと受李は絶対に復讐心を持っているはずだ。
「そしたら意吏は……くっ」
務は握り拳を固くした。僕はなんとも無力だと。すると
「父さん……!」
受李がぜぇ……ぜぇ……と息を切らしながらゲームソフトを持って務のところにきた。
「電話……終わったの?」
「うん。決めたのかい?」
「うん!えっとね……これ!」
と務に一枚目のソフトを渡した。
「へぇ……
「うん!でしょ、でしょ!」
と受李は嬉しく笑顔を見せる。こんなにも笑う受李を見るとなんだかホッ……とする。すると
「あとね……これだよ!」
「お、どれどれ……!???!?!?」
と受李が笑顔で持ってきたのは、なんとR18のギャルゲーであった。
「う……受李……一枚目はいいとして…これはないよ…」
「え?これ、父さんのために持ってきたよ」
「あー…それはありがたいけど……父さん、そういうゲームは苦手なんだ……」
嘘である。そのギャルゲーは務がたまにやっているゲームであるのだ。しかもそのギャルゲーは続編。確かに務は欲しいという言葉を消してでも受李に説得をしようとしたのだった。
「確かに受李の気持ちは助かるよ。けどね、僕、そういうのは苦手なんだ。だから…」
「で、でも父さんのお友達が、これ好きだって教えてくれたよ……」
「え(あの野郎…💢)」
「あと、意吏もそう言ってたよ」
「意吏ぃぃぃぃぃぃぃ!!」
とうとう務は大声をあげた。実は務がギャルゲーをしているところを意吏に見せられたのだった。絶対に内緒だとあれほど言ったはずなのに……すると
「じゃあ、お会計のところを行くね」
「え…あ、ちょ、ちょっと待って…」
受李は即座にお会計のところに向かって走った。いつの間にか持ってたゲーム機を持って
「いや…待って受李ぃ!」
と務は受李を追いかけた。
「それでいいのか!?絶対にダメだぞ!あ、そうだ!お菓子!お菓子ならいいよ!だから、その………俺がやっているギャルゲーの続編を買わないでくれー!」
と務は焦った。
まさかこれが最後の娘と父の親孝行とは誰もが思ったことだろうかと
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