ほんの『一部』の日常である。_夜
カンカンカンカンカンカン!……
急いで階段を上りこっちに近づく音が聞こえる。それはヘッドホンをしている受李にも聞こえた。
(別に急がなくてもいいのに……)
呆れながらそんなことを思っているとガチャり&ドン!とドアとともに大きい音を出した。その音に呆れてしまい受李は玄関で倒れており、何故か体がボドボドになった蓮佳を見下ろす。
「遅いよ。てっきりまた居酒屋でたっぷり飲んでるかと思ったよ」
「んなわけねぇだろ……こっちだって……大変だったんだz…ゴホッ...ヴ...ゲホッゴホッゴホッ...」
「うん。状態から見ても分かるー」
受李は蓮佳の肩を持ってはリビングに引きずり出した。
「ぐっ……ゔ……はっーー!死ぬかと思ったわー!」
「一体何があったの……」
「あー、実は五色田ばあちゃんのとこに寄ってたら……」
「え、何それずる」
「いいから話聞けやボケ、それからな……」
実はあの後の蓮佳は五色田ばあちゃんのとこにいた後、もう少し家に着くはずなのに残っていた化け物がいたので凄く手こずりだして、こんなボドボドになったらしい。
「結構焦りましたな」
「そうですよ。夕飯出来てないし」
「いいよ。私、袋麺でもいいから」
「馬鹿野郎お前。栄養不足になるぞ」
「大丈夫よ。私、太らないから」
「あ、それ言ったな。お前、それ後悔するやつだぞ。この前だって正月太りしたくせに」
「でも、この体型に元通りですぞ」
「ぐっ……」
若い子の体、ずりぃぃぃ………。と今にでもブチ切れそうな顔をしながら蓮佳は
「とにかく、適当に軽いもんで作るから待っとけ」
蓮佳は体がボドボドになりながらもキッチンに向かった。ゴホゴホ……と少し大きな咳払いをした。
「はい、どうぞ召し上がれ」
「おお……これは……いただきます」
ダイニングテーブルの上には関西版のきつねうどん。その神々しさのある汁のツヤはまるで高級レストランの残り汁でも使ったんですか?と思いがちレベルであった。それを見慣れたかのように受李は箸を取り、うどんをすすった。
「……うん、うまい。やっぱり蓮佳の作る料理はうまいな」
「この様子だとお前、ずっとレトルトだろ」
「そうだよ」
と堂々という受李。
「そうだよ、じゃない!俺が作り置きしてた肉じゃがどうした。ちゃんと食べたのか!?
」
「ああ、それなら食べたし残りのは五色田ばあちゃんにあげた」
「あげるな!それに五色田ばあちゃんを残飯処理班みたいなことを言うんじゃない!五色田ばあちゃん、あれでも糖尿病という病気になってるんだ。そこも配慮しろ」
「あれって糖が入ってたの?」
「わかんないけど」
蓮佳は最後のうどんをすすると受李がこう言った。
「なら言うなや。それに強制ではない肉じゃが美味かったからおすそ分けしたよ。「私が作ったよ」って」
「嘘つくなや!って、結局、強制じゃねぇかよ!」
「冗談だよ。冗談」
「んもう……ご馳走様」
蓮佳はため息混じりにそういい知るだけが残ったうどんの皿を持って席を立った。
「ご馳走様でした」
受李もうどんを食べ終えて蓮佳と一緒にキッチンに向かった。
「ふー、スッキリしたー……ってあれ?」
シャワーから上がり湯気と共に来たパジャマ姿の蓮佳。すると近くにあったソファーにはなんと蓮佳に先にあがった風呂上がりの受李がいたのだった。
「受李……どうしたの?」
「いや、ちょっと……
と言いながら今流行ってるスマホゲーム GAN dancingというシューティングゲームをやっていた。蓮佳がそのゲームをしている受李の隣に座った。
「それ、結構流行ってるよね」
「うん」
「あんた、今何位だっけ?」
「………100位」
「………え!?100!?凄いじゃん」
「俺、ほぼリリース同時にやってるからね。こういうのは当たり前だよ」
「……へぇ……」
すると、何かを思いついたのか蓮佳が突然ハグしてきたのだ。受李は少し驚いたが表情を変えずにこう言ってきたのだ。
「どした、いきなり」
「癒しをくれー」
「なんで私が?つーか、酒飲めばいいだけの話じゃねぇか」
「俺の顔に落書きしたのはどこのどいつだよ」
「げっ!」
受李は気まづそうに蓮佳から目を背けた。やっぱり今朝の落書きの犯人は受李であったことが分かった蓮佳は続ける。
「しかも油性で書きやがって……どれだけの時間をかけて完全に消えやがったのか……お前にも分かるか?この気持ち」
そう、受李が書いたのは油性の黒ペンである。それまでも知っていたのかと受李は
「………ふっ」
「いや笑うなや」
なんとハグしてる人を嘲笑い見下したのだ。
「あの時はお前の飲みすぎはどうかと思ってたんだよ無防備なお前が悪い」
「んだとゴラァ!」
「うるさいうるさい」
「………でもまぁ、いいけどさー」
と諦めたのかそれとも拗ねたのか、蓮佳はハグするのをやめ、少し受李との距離を置いた。
「俺はとにかくあんたが無事で良かったよ。だが、落書きは許せねぇけど」
ため息混じりの事を言って続いてもまだ受李は蓮佳を見ずに聞いているフリをしながらゲームをしていた。そんな受李を横目に蓮佳はまたもや続けた。
「まあ、あんたにとっては、んなのは関係ないか。いいさ。俺はあんたを守ることだけだから。あんたの親父との約束だから」
と蓮佳は俯いた。あの時、務さんが向けた彼女の優しい視線は本物だからだ。それに
「俺だって優しい……っは!」
すると「優しい」の気がついたのか、蓮佳は受李の方を向いた。だが、一歩遅かったか受李なんと寝落ちをしてしまった。gameCLEARというスマホの画面を表示していながら
「〜っ!(お前ってやつは……💢)」
蓮佳は怒りを堪えた。なんでこんな時に寝てんだよ〜!と今すぐにでも言いたくなるような顔だった。蓮佳は受李の顔を近寄った。しかも鬼のような形相で。すると
「………」
寝ている受李の顔に近づけば近づくほど何故か怒る気力がなくなっていく。
「………はぁ」
と、とうとう諦めたのか、蓮佳はため息をついてまた受李との距離を少し置いてしまった。
「まぁ、いいけどさ……」
すると蓮佳は少し受李に近づいた。すると、微笑み受李の頭を撫でた。まるで本当の母親のように。さらに撫でたのが影響したのか受李は「ふふ……」と少し笑っていた。
「なーに、いい夢を見てんのか……」
と少し照れくさそうに笑い混じった。そして
「おやすみ」
と親かと思われるくらいで受李の頬にキスをした。ついでにいつの間にか持ってきていた黒の油性ペンをもって。
これが彼女にとってはほんの一部の日常である。
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