決別

 プラグは、倒れているヴァルシュヴァル卿を見た。瞬間、体がうごいた。それまで鍛えていたすべての力が解放された気がする、青い力がヴァルシュヴァル卿をつらぬき、一発、二発、三発、すべてがヴァルシュヴァル卿を粉々に肉片へと変えた。


 頭の中、そう……思えた。実際はイメージしただけで体はうごかなかった。それどころか、プラグの様子をみた。プラグは……大した負傷はなかった。その腹部には、プラグと別れ際に渡した、ルケがあった。プラグはそれを渡すと自分を疑った。

「これが爆弾か?」

 クランは笑っていった。

「そうだとしても、君に選択肢があるのかい?」

「くっ……」

 プラグは笑っていた。マルグリッドの強さを理解していたかのように。


「マルグリッド……マルグリッド」

 プラグは、その頬に手を伸ばす。

「あなただけだった……この国の、何より信仰されているオートマタが“バグ”を起こすことがあるって、それが悲劇を生む事があるって、信じてくれたのは」

「う……う」

 その傍らで体を動かすクラン。その腹部には何の傷もなかった。ルケがすべて肩代わりしていたのだ。きっとヴァルシュヴァル卿はそのことに気づいていて、彼を壊そうとしたのだ。だが……“爆弾”というのは嘘だ。あれは完璧な結界、プラグが両親から教わった、唯一攻撃ではない魔法。

 

 プラグは涙をぬぐうと彼にかけよった。

「かはっ……」

 腹部に痛みを感じ、呼吸があらいクランを無理やりうごかし、おこした。

「な、何を」

「初めからお前は助けるつもりだった」

「そんな事……いまさら」

「今更だと思う、だが見てみろ……彼女は……青の夜鳥は最後に僕を裏切った……もう行く場所もない、お前ひとりたすけようが助けまいが、一緒だ」

「なら、助けなくても」

 プラグは、だまったまま彼をかつぎ、急いでその場をあとにした。


《ブウォン、ブウォン》

 巨大な衛兵オートマタ計3体が、街を警備してまわっている。衛兵アーマーたちも探し回っている。クランとプラグはなんとか町の外にでて、その様子をみていた。もはやこの領にはいられない。



「ヴァルシュヴァル卿の意思で、オートマタが人を殺し、法を犯すこともあるか?」

 数少ない会話で、その問いに、クランは答えた。

「あるよ、領に戻れば答えがわかる、その見返りは、死だ」


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碧眼のマリオネット ボウガ @yumieimaru

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