逃亡

 マルグリッドは、プラグに呼びかける。

「大丈夫?」

「うん」

 プラグは何とか答えた。

「今からでも、あなた一人で逃げてもいいのよ」

「いや……、マルグリッド、あなたの教えの通りにする、それが嘘でも俺は」

「やっぱり、あなたは私とは違う、私たちとは、まだとても若く、美しい」

 マルグリッドは助走をつけて、アイリーンにとびかかった。かと思い来や、プラグの目の前で、件の武器―巨大なオートマタの腕を出したのだった。

「まだよ、プラグ、私がいいっていったら」

 その瞬間、プラグは目の前に閃光が走ったのを確認した。どたどたという足音、やがて自分の直ぐ傍で、あたたかな声が響いた。

「いいよ、プラグ」

 プラグはマルグリッドの手に誘導され、手のひらがあのアーマーに当たっていることにきづいた。力いっぱい込める、自分の中の“アシュヴァ”の力を。

「プラグ、あなたはどうしてこんなに私を信じてくれたの?」

「マルグリッド……機械衛兵―オートマタの衛兵が“バグ”を起こす頻度への違和感について、信じてくれたのはあなただけだった、そう……俺の両親が、オートマタの衛兵に殺されたのを信じてくれたのも、きっとこの帝国への違和感を持つものは、そう……」

「シッ……プラグ、あと少しよ、もう少し力をこめて」

「でも」

「これで終わる、これですべて終わる、何があっても、あなたは逃げ出して、やがて、合流しましょう」

「うん」

 プラグは腹部に力をこめ、やがて全身からアシュヴァの力が解放されるのがわかった。青い力がぼやけた瞳からも感知できる。次の瞬間、すさまじい爆発音がひびいた。

「ズドオオオオオン!!!」

 しばらくすると、マルグリッドの声がひびいた。

「いいよ」

「うん」

 プラグは、めをあける。マルグリッドが今呪文をかけたのか、目ははっきりとひらいた。自分の手は巨大なオートマタの腕にそえられており、その腕は……すさまじい痕跡をのこしていた。腹がえぐれよこたわるヴァルシュヴァル卿、同じ様子で倒れるアイリーン、そして、唖然とした様子で身動きがとれない、今駆け付けたであろう、オートマタの衛兵たち。

「マ……マルグリッド」

 プラグは、呆然とした。マルグリッドの腹部には、サーベルが突き刺さり、何よりも、腹部が、ヴァルシュヴァル卿や、アイリーンと日にならないほど、ぽっかりと穴があいていたからだった。

「ごめん、二人まとめてやるしか、なかったから」

「マ、マルグリッド、ど、どうすれば……」

 急いで治癒をしようとするが、そんな術はしらなかった。

「こんな大穴、魔法でも無理よ、わかっているでしょ、ね?」

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