三人の決闘

 アイリーンは、マルグリッドに襲いかかった。プラグは呆然としていた。プラグは、黒猫と呼ばれていたときから、噂に尾ひれがついたときから、人に暴力をふるったこともなかった。かといって、人から優しくされた事がなかったから、人を信用していなかった。けれどあの日、マルグリッドは初めて自分にやさしくし、ごはんをごちそうしてくれ、そして、自分を信じてみろといってくれた。


 これは、裏切りだっただろうか。たしかに、マルグリッドは自分のように、世に恨みを抱えていた。それを覆すことができなかった。けれどプラグが救われた事は事実だった。プラグはとびかかり、マルグリッドの肩にかみついた。その瞬間。

「ギャッ!!」

 ズドンッ、とすさまじい腹痛に襲われ、気づけば廃屋の壁にたたきつけられていた。まるであの時の、クランのように。

 体が動かない、身動き一つとれない。そして考える。勝ち目など初めからなかったのではないかと、ヴァルシュヴァル卿は片手で自分をふっとばした。だが、プラグは立ち上がらなければいけなかった。


 マルグリッドは、アイリーンのこぶしを、いなし、かわし続ける。アイリーンは、雄たけびをあげた。

「あんたのせいで、あんたのせいで!!」

「ふん!!」

 マルグリッドは、プラグの様子をみながら、決着をつけるタイミングを見計らっていた。しかし、ヴァルシュヴァル卿はずっと目を光らせていて、何をするかわからない。しかし、マルグリッドはふと、決意したように、飛び上がると、立ち位置をいれかえた。そして、アイリーンをおちょくるようにこういった。

「ねえ、アイリーン」

「何!!?」

「あなた、中身が入れ替わったのでしょう、でも、あなたの中にいるのが“ヴァルシュヴァル卿”の気の弱い部分、そしてもともとのアイリーンの優しい部分が残った」

「それが何よ!!」

「あなた、ヴァルシュヴァル卿の子供を宿し、生んだ、それが私に殺されたと思っているんじゃない?そう、ヴァルシュヴァル卿に聞かされた」

「だから、それが何だっていうのよ、大方プラグに聞かされたのでしょう」

「そうよ、プラグがいってたわ……あのプラグこそがその子供の“残骸”からつくられたもの、つまり、殺したのはヴァルシュヴァル卿自身だってこと、しかもさっき、私が勝負に勝った時も、殺した、彼は自分の子供を二度殺した」

 唖然として、ふりかえるアイリーン、その後ろから、ヴァルシュヴァル卿の太い手が勢いよくせまり、アイリーンはすんでのところでかわした。だがそれは、マルグリッドの腹部にあたって、マルグリッドはプラグの傍に吹き飛ばされた。

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