介入

 突然、屋上から奇怪な声が響いた。ヴァルシュヴァル卿の声だ。

「アアアア!!!!罪深きものたちよ、罪深き民族よ、今私が、その命をもらいうけよう」

 そういって、屋根をとびこえて、向こう側にとんでいくようだった。

「キャアアア!!」

 シスター、マルグリッドの悲鳴が聞こえた。


「はあ、はあ、はあ」

 苦しそうに呼吸しながらも、逃げ続けるプラグを攻撃しつづけるクラン。

「青の夜鳥……マルグリッドは」

「?」

 プラグは、ふと様子の変わったクランを見つめる。

「マルグリッドは……確かにいい人だ、だが……何も変える事はできない、この運命も、あの狂気の人々の“中身”も」

「なんのことだ?」

「お前たちが見ているものはすでに幻、時期にわかるだろう」

「なんで、マルグリッドがいい人だというんだ?俺には、わからなくなってる」

「……」

 クランは服部に手を当てた、黄色い魔力が手から流れ出ている。治癒をしているようだった。


「初めから、アイリーンではなく、私の世話を受けろといっていた、ヴァルシュヴァル卿の手を逃れろと、俺は拒絶した、怖かったからだ、だが……お前こそ」

「なんだ?」

 徐々にクランの傷口がよくなっているようだった。なんとなしに、呼吸も落ち着いてきているようだった。

「お前こそ、なぜ彼女の言う事をきくんだ」

「それは……それは彼女はすでに、初めから嘘つきだったから、彼女と初めて会ったとき、教会を案内され、そこである約束をされた、その限り、彼女は俺を守るといってくれた……」

「フン……俺と同じだな」

「何が?」

「ヴァルシュヴァル卿の傍にいる限り、あらゆる迫害から守るといわれた、それがこの結果だ、すべては狂気の中におちた、人生も、希望も……自分が何だったかも思い出せないし」

 プラグは哀れな目を向ける。だが、先ほどのヴァルシュヴァル卿の事と、建物の向こう側にいるマルグリッドが心配だった。自分がいれば、彼女を逃がせるかもしれない。

「無駄だよ」

 ふと、クランが自分の腕の裾をつかんだ。

「ヴァルシュヴァル卿は、最強の戦士だった、戦争の時活躍した100人殺しの異名を持つ精鋭部隊の軍人だ、彼が本気をだしたんだ、逃げられっ子ない」

 しかし、プラグには違和感があった。ヴァルシュヴァル卿は戦後、心を病んだときいていた。しかし実際いきいきとしたヴァルシュヴァル卿の姿を見るに、それも噂に過ぎなかったという事だろうか。

「それでも、彼女をたすけなきゃ」

《シュッ》 

 クランは裾をつかんでいるのと逆の手でナイフをつきだした。プラグはよけて、右手で青い魔法陣をつくった。

「……何をする気だ」

「“爆弾”の魔法……唯一両親から教わった、トラップ型の魔法だ」

「アシュヴァの力か……」

「何にでも設置できる、だがお前がこの手を放せば、やめておこう」

 クランは、すぐに腕をおろした。


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