決闘祭もどき

「あなたはさぞ人から愛されてうれしいでしょうねえ!!」

 鞭をふるうアイリーン、マルグリッドはそのひとつひとつを丁寧にかわしていく。

「くっ……」

「あなたは簡単に人を愛した、けれど私が愛したのは一人だけ……私を受け入れてくれた人、ヴァルシュヴァル卿よ」

「!!」

 マルグリッドは、手を止めた。アイリーンも同じく、ふとすっと姿勢を整え佇んだ。

「どうしてそこまで、あの狂気の人間は、そこまでする価値があるの?」

「ふん、それをいうならあの“黒猫”プラグだって、あなたが見つけ、拾うというから私がずいぶん、修道長会にかけあったか……」

「それは、助かったけれど」

「ふん、その間もあんたは”青の夜鳥”に扮していた、あんたは”実験体”としてうまくいったからこそ、生き延びたにすぎない、あんたはヴァルシュヴァル卿に生かされていた、それなのに、恩を仇で返すなんて……」

「私は……彼に……彼に恋人を殺された」

「ふん……ならば同じね、私はあんたに大切な人を奪われた」

「??」

「私の大事な子の命を奪った、青の夜鳥!!!」

「!?」


 プラグは、クランと対峙していた、クランは殴りかかってくるが怪我のせいか攻撃は大振りで、余裕でかわした。だがクランは一向に諦める様子もなかった。それどころか、彼の執着はより一層濃くなっていくようだった。

「お前はいいよな、人間としてうまれ、人間として扱われ」

「何だって?」

「辛い事なんて何もなかったんだ」

「はあ?」

「俺は、俺は」

 クランは衣服をやぶいた。体全部がオートマタでできている。そして胸部のカバーらしきものをパカリとはずした。その中心に心臓が、人間の心臓が脈うっていた。

「ウッ……」

 プラグは吐きそうになる。

「フッ……おれは、元人間だったんだ、お前と同じような生活をしたかった、お前と同じように、でも俺は、アルシュヴェルド人だ、ファザー、ヴァルシュヴァル卿いわく、彼らにつぐないをしなければいけないんだ」

 プラグは、さっきの事を思い出していた。シスター、マルグリッドは彼をこういっていた。

「アイリーンと同じ人でなし、きっと魂もないと」

 プラグは迷っていた。その言葉の続きを考えて……しかしもし彼にマルグリッドの命を奪われることになったら、その時は……。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る