破砕

《ズドーン》

 壁が破壊され、破片が飛び散る、いつのまにかプラグはその衝撃と破壊からのがれ、宙を飛びやがて屋根上に着陸した。

「マルグリッド……」

 自分を抱きかかえたマルグリッドは痛みをこらえるように苦笑いをした。

「マルグリッド!!マルグリッドオオオ!!!」

 どうやら、小さな影があらわれ、その壁を破壊したようだった。その影は幾度か見覚えがあった。

「クラン」

 どうして孤児院に現れたのか、正体は何ものなのかわからないが、クランはプラグにとって得たいの知れない存在だった。特にあの状態―オートマタそっくり―の時のクランは……。

 壁がやぶれたとき、クランはその最前列におり、すぐ背後にアイリーン、その大分奥にヴァルシュヴァル卿、クランは彼らの命令か、実際その小さな体に似合わない威力のパンチを放ち、壁をつきやぶったようだった。

「プラグ……」

 反対にプラグを見あげるクラン。気勢をあげ、勢いを増すアイリーン。


 マルグリッドは腹部を抱えた、プラグが下を見下ろしているのを確認し、腹部をみる、傷口に破片がつきささっていた。青い顔をしながらも、魔力をこめ、応急処置をした。


 プラグは、マルグリッドに視線を移す。

「逃げよう!!マルグリッド!!これまでの事なんてどうでもいい、君は僕の罪を許してくれた!!嘘でもいいから自分を信じてみてくれといってくれた!!」

「信じられなければ、あなたを裏切ったのなら、私をいつでも見捨ててといったはずだ」

 重い沈黙が流れた。

(そんな事どうでもいい)

 心ではそう思っていても、その言葉がなぜだか出てこなかった。深く悩むその顔に、どこか知らないマルグリッドの姿を見たから。


 ふとマルグリッドが、何かの気配に気づき、後方にとんだ。

「ウハハハハハハ、ヴハハハハハ」 

 笑いながら、いかにも狂気にみちた、軽々とした踊るような動きで、ヴァルシュヴァル卿がサーベルをもって襲い掛かってきたのだ。その動きはどうやらプラグとマルグリッドの間を引き裂こうとしているようだった。

「チッ……」

 マルグリッドは無理をしなかった。できなかったといってもいい。プラグを突き放した。

「え?」

「プラグ……“あの場所”で落ち合おう」

 そしてプラグはゆっくりと落下していった、どうやら自分の体が魔力につつまれて、落下の衝撃をゆるめたようだった、そして小さな建物の屋根にドスンとおちた。下をみると、息も絶え絶えといった様子のクランが自分を見上げていた。


 一方マルグリッドは巨大な城のような建物を隔てて、その庭に落下した。そこにアイリーンが待ち構えていた。


「アイリーン……」

 彼女は何もいわずにコートをぬいだ。

「!!!」

 マルグリッドは言葉を失った。さらけ出されたアイリーンの体は、胸も腹部も足も、そのほとんどが機械化されていた。


「皆……皇帝との関係を羨ましがるけれど、皇帝につくということは、ヴァルシュヴァル卿の“罪”に従わなければいけない、私も改造されたのよ」

「あなたもアルシュヴァルド人なの?」

「それだけじゃない!!あなたには恨みがある!!今日こそ因縁に決着をつけるわ!!私の手でね!!」

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