ヴァルシュヴァル卿

 夜闇にたたずむヴァルシュバル卿。するどい目つきで街を見下ろしていた。屋根上にたち、まるで夜風の訪れをひとつひとつ肌で感じているようだった。

「来たか」

 ポツリとつぶやく。見下ろす先には、アイリーンが腰をおとして片膝をついてひざまずく。

「シスター、アイリーン、皇帝の命により、今宵あの厄介者を処分する……」

「……は!!」

 アイリーンは立ち上がり、礼をして服装をととのえる、コートをきて体のあちこちに防具をつけ、そのいでたちはもはや、青の夜鳥そのものだった。しかし、彼女の目は青く光らなかった。


 夜の路地裏、大人たちの叫び声が聞こえる、警察や、衛兵だろう。

「青の夜鳥が出たぞー!!青の夜鳥がでたぞー!!」

 その声をききながら、ある神父の格好をした男が、シスター姿の女性に話しかける。奥は袋小路、夜ということもありシスターの窮地にもおもえた。暗闇から月に照らされ、神父の顔が明らかになる。それはグイン神父だった。

「シスター・マルグリッド」

 ぴくっと反応し振り返る

「あら、グイン神父、こんな夜更けに何を?」

「君こそ何を」

「私は……昔を……友人を思い出して……少し夜風にあたりに」

「それにしては、ずいぶん遠くじゃないか」

「ええ、でも戻ります、神父も早く……」

「ああ、そういうが、君を送らなければ、青の夜鳥がでたというし」

「あらそうですか?誰かが姿をみたとか?どうやら憲兵たちのうわさ話から騒いでいるようですよ」

「どうして君がそれを知っている?」

 緊迫した空気が流れた。

「あなただったのですね、グイン神父、青の夜鳥は……」

 ふと、マルグリッドが背中の……巨大な荷物を取り出そうとした。それは布にくるまれており、バイオリンケースのようだった。


 だがマルグリッドは、グイン神父の後ろにせまる小さな影に、それを取り出す手を止めた。

「……プラグ」

 そこから現れたのはまぎれもない、あのプラグだった。悲しそうな顔をして、あるいはすぐにそれは、マルグリッドを見つけた喜びに変わったように見えた。

「プラグ!!」

 神父が叫んだ。と同時に神父は空から迫りくる影をみて、プラグのほうにはしってプラグを抱きかかえて、そのまま地面にたおれこんだ。コートからのびる長い二本の鞭、以前より俊敏、かつそれは魔力をまとっていた。

「マルグリッドオオオオオ!!!」

 復讐に燃えたかのような声をだし、それは姿をあらわした、するり、とフードを下ろす。それはアイリーンだった。


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