混沌
プラグは逡巡した。何かとても嫌な予感がした。振り返り教会にもどればそれまでの事が今まで通りでいられるような。手元をみる。ルケがじーっと自分を見上げている。
(俺は、どうすれば)
「……」
どのくらい迷っていただろう。いつの間にか夜がふかまり、外が騒がしくなっていく。なぜだろう、マルグリッドの顔が浮かんだ。マルグリッドがいつか話していたことが思い浮かんだのだ。
「私には―親友がいる」
それは初めてであった時の事だ。プラグはマルグリッドに殴りかかるそぶりをした。だがそれはあくまでそぶりだ。なぜなら噂とは裏腹に、プラグは道具を使って他人を打ちのめすのが得意だったから。
そんな彼の前にでたマルグリッドはあのとき、いった。
「殴ることであなたの復讐は終わるの?あなたにまた、深くのしかかるのでは?」
「!?」
「私は、あなたでさえ、愛することができる、私にも、この世界で辛い事があったから、辛い別れ……兄と呼べる人を失った、私はね、青に、アルシュベルド人に両親を殺された」
「それがなんだっていうんだ」
プラグの体は震えていた。自分の青い髪と青い瞳を差別する人間がまた現れたと思ったからだ。だがマルグリッドから吐き出された言葉は意外なものだった。
「友人も、友人の父母もそうだったのよ、でも友人は優れた人間でね……復讐心はなにもうまないって教えてくれたの」
「それが!!それができるなら苦労はしない!!」
プラグが叫んだ。
「友人は……友人の両親は……かつて青を大量虐殺した人間だったの」
「!?」
「友人は、両親が戦後ひどく苦しんで何度も自殺未遂をしたのをしっていた、最後も醜いものだったわ、許しをこうて死んだ、その話を聞いて私おもったの」
マルグリットはプラグを見つめた。
「私も“嘘でも憎いものを愛する人間にならなきゃ”」
プラグは現実に戻り、マルグリッドの部屋へ、修道院へ急いだ。プラグにとってはこの孤児院で唯一もっとも信頼できる人間がマルグリッドだったからだ。
「マルグリッド、マルグリッド?」
修道院の入り口は開いており、マルグリッドの部屋に電気がついていた。その入口にたって、プラグは、唖然とした。
そこにエリサがたっていて、引き裂かれたいくつかのマルグリッド人形をみつめていた。それは床に転がっていた。
「……」
「これ、マルグリッドがやったのか?」
コクリ、と無表情で頷くエリサ。
「なんで……」
ふと、プラグは悪寒が走った。今日ここにいないという事は、夜中抜け出したという事は、もしや以前のアイリーンとグイン神父の様にあの場所にいるかもしれない。すぐに部屋をでようとした。
《グイッ》
エリサが袖をつかんで止めようとする。
「ねえ、きっとマルグリッドにも秘密にしたい事があるんだよ、彼女は聖人じゃない」
「でも、胸騒ぎがするんだ」
「プラグ……私も、あなたが何かに出会って、戻ってこない気がするの」
「でも……」
エリサの手を両手でつかみ、振りほどこうとした。
「アイリーンも悪い人じゃない、ペペロもクランも仲良くなりたいけど時間がないっていってた、だから、いかないで……」
エリサは震えていた。だがプラグは
「必ず戻ってくる」
そう言い残してその場を去った。
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