報復

その夜。なかなか寝付けないプラグ。妙に胸騒ぎがしていた。ぼーとしているとわずかな物音が聞こえる気がした。目を閉じる、と、頭の中に映像が流れ込んできた。

“怪我をしているマルグリッド”

“オートマタの仮面をかぶったクラン”

“鞭をもったアイリーン”

“今宵の犠牲者、河原に投げ込まれた貴族労働者、青の夜鳥によって腹が貫かれている”

 立て続けにその映像と意味が頭の中に流れ込んできた。プラグは腹部の違和感に体をおこした。腹部には、ルケがあった。眠るときには自分のロッカーにいれておいたはずだった。

(ルケ?……お前)


 そうしていると月明かりが妙にまぶしく目を覚ましてしまった。誰もいないキッチに行き水を飲む。ふと頭痛がして頭を抱えていると、先ほど眠る前に、クランと喧嘩をしたことを思い出した。こうして水を飲んでいると、やけに突っかかってくる。

「お前はいいよな、気楽で」

「はあ?何が?」

「お前は、心配ごとなどないんだ」

「何の事だよ」

「お前は夜の世界を知らない……お前がお前こそが、元凶、すべてが明らかになったときお前は……今のままでいられるか」

「一体何をいってんだ、お前頭でもうったのか!!」

 そういってクランの肩にてをやったとき、ずるり、と胸元から何かがおちた。それは、マルグリッドの人形だった。

「お前、それどこで」

「エリサにもらったんだ」

「お前のことだ、盗んだんだろ」

「違う!!!俺はそんな奴じゃ!!」

「俺の前ではそんな奴じゃないか」

「クッ……」

 嫌な顔をしてその場を立ち去ろうとするクラン。キッチンを出る時にふりむいていった。

「エリサはお前の人形を作ろうとしている、もうほとんど完成している、でもお前はそれまで、お前の本性を隠しておけるかな?」

「一体何のことだ……」

 ふと、現実の時間に戻る。

(不気味な奴だ……)

 そうつぶやいたとき、どこかで声が響いている気がした。傍らの腹部まである高さの台においたルケを見つめる。ルケの声じゃないようだ。

“いかなきゃ……”

 聞き覚えのある声―そうだ、斧声は、クランの声だ。

“いかなきゃ……”

 また遠くなる。なぜか、か細く苦しんでいるような声、プラグはキッチンをでた。そして声のする場所へ急いだ、裏口から、裏庭に、するとどうやら人影がその突き当りから左へ隠れてしまったのを見た。プラグはおいかける。

(まさか、あいつじゃないよな)

 と、裏庭の丁度真ん中あたりにモノが落ちているのに気づいた、拾い上げると間違いない、それはマルグリッドの人形だ。

(クラン……)

 妙な胸騒ぎを覚えた。そういえばクランのやつは日に日に体の調子が悪くなっているような様子だった。すぐにおいかける。と、ある路地でその人影においついた。肩に手をやる。

《バッ》

 振り向いたそれは、クランではなかった。あのゴーグルをつけたオートマタだった。

「触るナ!!」

「クラン……」

「!?」

「お前、クランだろ?」

「ち、違ウ」

 プラグがそのゴーグルのような顔に手を伸ばそうとする、それはよく見ると切れ目があり、仮面のようであった。その手が届きそうな瞬間、プラグの手は振り払われた。

「お前には、“真実”を知る覚悟がなイ、マルグリッドを助けたくば、この夜に踏み入るがいい、だが、根性と覚悟のないお前には……平凡な日常を生き続けるのが似合いだろう」

 そういって、そのオートマタは空高く飛び上がり、屋根の上を駆け抜けていった。



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