青の夜鳥2

 グイン神父は、急いで駆けまわる。路地裏のゴミ箱や、ひさしなどの死角に、いまかいまかと救いの手をまちわびながら、言葉にしない気持ちの中では、自分が人違いである事に気づいてくれという想いがあった。現に噂にきく夜鳥はすぐに獲物をかって立ち去るというがもう5分ほど追いかけっこをしている。

 ふと、足音が止まった、振り返る神父、夜鳥が漆黒のコートに身を隠しながら、こちらを見下ろしている。その両目だけが青く光っていた。

「青の……夜鳥」

 ふと、しゃがむ姿勢になりかけたのでグイン神父もまた身構えた。

「……またお前か」

 (また?お前か?)

 人違いで!!と叫ぼうとした瞬間だった。青の夜鳥が地表におりたち、それと同時に自分の前に、シスター姿の女性がたちはだかった、その右手には蛇腹状の武器、奇妙な刃のついた鞭をもっていた。

「シスター……アイリーン?」

「よくやりました、あなたは下がっていてください」

 そういってシスターは、鞭をふるうてと逆の左手をかばうように軽くひろげた。それを合図に、グイン神父は走り去ってなるべく距離をとった。

“ドンッ”

 何かにぶつかる。分厚い胸板。上をみあげるとヴァルシュヴァル卿がいた。戦争の英雄、ヌーヴァル帝の側近。そして今はこの領の守護者。貫禄のあるその瞳が見下ろしている。

「す、すみません」

「よい……だが今日の事は黙っておくことだ」

 そういって、グイン神父の肩を掴むと、ヴァルシュヴァル卿はグイン神父と反対に、今戦いがおころうという場に向かっていくのだった。


《ガイン!!!》

《ズバッ》

 長いムチ状の武器を振りまわすアイリーン、そのアイリーンの鞭をどう防いでいるのか、青の夜鳥はコートの中で何か固いものを使いはじき返しているようだった。その攻防戦は何分となき続き、両者一歩も引けをとらなかった。

「くっ……きりがない」

 アイリーンはこめかみに手をやる。するとアイリーンのこめかみが黄色く光った。

「所詮、過去の亡霊だ!!」

 アイリーンはもうひとつ鞭をとりだし、両手に鞭を持ち、攻勢をつよめた。彼女の背中から肩にかけて、まるで一つの触手がはえているようにしなやかになびく。すさまじい斬撃に、一歩、また一歩と青の夜鳥が後退していく。

「く……」

 金属音がより高くなり、まるで金属を加工するカッターで切り刻んでいるような音が響く

《ギャリリリリリリ》

 しかし、青の夜鳥は、その後方で徐々に準備をはじめていた。後方に用意されていたのは、巨大なオートマタの手のような部品、それを片手でもち、そして魔力を注ぎ込んでいるようだった。


 二人の戦いをみるヴァルシュヴァル卿、その後方の頭上、屋根上にまた新しい影があらわれた。それは小さな、子供ほどの影だった。それはコートをきている。その容姿は、以前プラグを襲ったゴーグルのような瞳をしたあの子供のようだった。

《!!》

 何かに気づいたように、子供は背を屈めた。


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