シスター・アイリーン

 夜修道院の奥の部屋、アイリーンの部屋から奇妙な衣擦れの音がする。フクロウがとびたち、窓辺から彼女を見下ろす。アイリーンはその二つの目に見られても、その行為を止めるつもりはなかった。アイリーンは神父の布人形をだきしめ、体をくねらせている。

「お兄様、言う事を聞かない子ばかり、あなただけが救いですわ」

 ゴソゴソとうごいて、神父の人形を抱き上げる。床がきしむ。それでも隣室のマルグリッドは起きてこなかった。大きく手を広げ、より一層強く抱きしめる。何者かの気配を感じて窓に目をやると、ぼんやりとした月明りの前に、街頭の光を反射した二つの目があった。

「キッ!!卑しいフクロウめ!!」

 やがて、深夜3時、時刻を確認して起きだすと、夜の街に向かった。長いコートをきて、教会裏手からでると、スラムへと続く市街へむかう。そこで、ある路地に入ると、彼女はコートから口だけだして、声をあげた。

「公爵、まいりましたわ」

 白髭白髪の紳士、無表情でがっちりとした顔の筋肉。前髪をかきあげた前髪。左目に仮面をかけた男。赤い瞳。見るからに裕福そうなコートを着て、首にスカーフ、腰にサーベルを下げている。アイリーンはその瞳に、先ほどのフクロウに感じたおぞけを感じたが、腰をおろし、深々と頭をさげた。

「ふむ、よいだろう」


 翌日、マルグリッドが、机の一番前、教卓で子供たちに授業をしている。

「~ほかの邪教や、魔力使いはその力強さから、やがて自らの身を滅ぼしました、ですから星の教会も我が国も、“黄色の魔力(ラウルガルド)”を最も正しい力としたのです、けれど、これは身体的特徴とは関わりがないことです、どんな人も“黄色の魔力”を使い、正しくドールを動かしさえすれば、平和になれるのです」

 ペペロが質問する。

「先生、ヴァルシュヴァル卿が“青の夜鳥”の正体だというのは本当ですか、“青の野鳥”は滅びた国家“アルシュベルド”の力“アシュヴァ”、彼はたった一人の復讐者という話です」

 びくっとするシスター・マルグリッド。

「関係ない質問は……」

 すると次は他の生徒が質問する。

「白髪に左目の仮面、むすっとして無口、見るからに不満をためてそうだと聞きました、ガルシュヴァル革命では、多くの“青族”を殺して戦果を挙げたとか」

「ですから、関係ない質問は……」

また別の生徒が頭の後ろで手を組んで、それにもたれかかっていった。

「でも、彼は“100人殺し”ヌーヴァル帝のお気に入り、そういえば、シスター・アイリーンもそうらしいと聞きましたが、アイリーンは王族に親戚がいるとか」

 シスター・マルグリッドはふと、窓辺をみると窓の外を退屈そうに眺めるプラグがいた。苦笑いすると、彼の傍によって周囲を見渡していった。

「少し休憩にしましょうか」

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