グイン神父

 グイン神父はひ弱な人だ。病弱というのもあるし元々の気質が、触らぬ神に祟りなしといった感じ、気のいい、心の清い孤児には優しくする。が、グイン神父は、この孤児院の大人で最も地位が低いといっても過言ではない。

「できないよ!!」

 太っちょのグドが、ペペラに脅されている。丁度シスター二人が買い出しにでかけている時に、件の決闘敗北によるいびりが始まった。

「いいからのめよ!!この、泥水を」

 雨で降った水たまりに、ペペロがグドの顔をおしつける。キャハハと笑うツンツン頭のガロと、くせっけのケロ。

「これに懲りたら二度と逆らわなえことだ」

「うぐぐっぐうぐ」

 

 エリサは、教会の掃除のために水汲みをしている時に、裏庭でそれをみつけた。すぐに水をおいて、グイン神父に報告する。

「お願い、助けて」

「う、ううん、いまいくよでもちょっと……」

 忙しいといって聖書をよみ、震える手をごまかし、グイン神父は時間稼ぎをしている、じれったいと思い、エリサは次にプラグの元へ向かった。


「プラグ」

「ん?」

「また“空打ち?”」

「ああ」

 シャドーボクシングのように、暇をみつけてはプラグは、自室でパンチの練習をしている。

「やめなよ、相手なんていないのに、それにあなたは暴力的じゃないでしょ」

「でも……“備えなきゃ”」

「備えるって何に?」

「大切なものを守るときのために」

 ふっと見つめあって、お互いに目をそらした。

「そうだ、そんな場合じゃない、グドがいじめらているの」

「ふむ、それで?」

「それで、じゃないでしょ、いくらなんでもやりすぎなのよ」

「ペペロだろ?そのうちまた飽きるよ」

「飽きたらまたあんたに絡むんでしょ!これ以上ひどくなったらどうするのよ」

「……別に、へでもないかな……」

 真っ黒く影のおちたような目をして、プラグかエリサを見つめる。その目はペペロでさえ怖れる目だ。ここでなく遠くを見ている。その人ではなくはるか遠い過去か未来を。


 やがて、プラグが急いで駆けつけたときには、泥水で汚れた裏の玄関と、バケツの水をちらかしたあとがあり、呆然としていると、おりわるくそこにかけつけたシスターアイリーンがそこに立ち尽くした。

「あ……」

 わなわなわなわなと震えるアイリーン。後から聞くと、神父はなんとかいじめをやめさせたのだがその理屈が“もうすぐシスターたちが帰ってくる”だった。それがいじめをかばうためだったのか、よくわからない叱り方であげくアイリーンに濡れ衣を着せられたプラグとエリサは、一週間ごはんの量を減らされた。

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