孤児院
教会のオンボロ、小屋のような離れの修道院に、二つの個室があった。ひとつはマルグリッドの部屋、もう一つは、シスター・アイリーンの物だ。整理整頓されており、こじんまりとした机と椅子があるだけ。見た目上二人の部屋は大差ないようにおもえた。が、マルグリッドが寝静まるその夜に、アイリーンは音をたてないように、巻き上げた髪を後ろでしばる。吊り上がった目にわしばな、きつくしぼったへの字型のくち。なんともいじわるそうなその女性は、見た目通りの性格をしていた。だがその夜だけは様子が違った。部屋の中央あたりの床板に手をかけると、そこに空いた穴に鍵を差し込む、カチっと音が下かと思うと床板はずれ、ずらすと床下の収納があらわになった。彼女が改造してつくったその中には彼女の大事なものがしまってあった。ミニチュアの祭服をきた牧師らしき男の明らかに手製の布人形がでてきて、彼女は大事そうに、涙を流しながらそれを手に取った。
「お兄様!!」
翌朝、むすっとした顔のシスター・アイリーンが孤児院でこどもたちの前にたっていた。
「整列!!」
アイリーンは、子供たちの様子を見て回る。子供たちは、アイリーンを怖がっている。アイリーンは彼らたちをじーっとにらめつけ、姿勢や、態度、身だしなみなどをみてまわる。
「いたっ」
いま、プラグの横の少女が、彼女に頬をつねられた。白い髪に黄色い瞳、純朴でまっすぐな目をした、髪をかきわけ、この孤児院でもっとも少女らしく、可憐な少女、エリサだ。
「何を隠しもっているの、またポケットに」
そういって、アイリーンはポケットからそれをひねりだした。それは、小さな人形だった。マルグリッドによくにて修道服をきている。それをみたアイリーンは頭に血が上ったように顔をゆがめた。
「これは預かっておきます」
「でも、それは皆から集めた生地でやっとつくったもので……」
「黙りなさい!!あなた方はこの孤児院を出るまで、引き取り手や、勤め先が見つかるまで、何の自由もないのよ!」
その背後で、扉がバタン、としまるおとがした。
マルグリッドが息を切らせて、修道院にはいってきた。嫌そうな顔をして、アイリーンはそっぽをむいた。
それから朝の挨拶、食事、お祈りと、歌の練習がされた。今度人々をよんで寄付パーティをやるのだ。その時に披露する讃美歌を歌う。星によって生かされている奇跡を詩にしたためたもの。
その練習の最中、一生懸命歌い、そしてひときわ美声を放つプラグ、そしてエリサその背後からマルグリッドが彼と彼女の肩にてをあてた。抱き寄せられているようで、恥ずかしくて顔をあからめるプラグと、喜んで微笑むエリサ。二人にとってそれは至福の時間だった。
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