母
貴方と離れて、日常が少し物足りなくなってから少し経った。
日々は変わらなかった。いつも通り太陽は登り、人々は周りに関心も示さず歩き、それぞれの人生がまた繰り返され、そして、一日の最後には太陽が沈んだ。
その変わらない日々に僕はほんの少しだけ失望していた。
僕が変われば、なにか変わるかと思っていたから。
きっと大きく変わるだろうと。
周りさえ巻き込んで、僕の人生は大きな岐路にあるのだろうと、そう思っていたから。
だが、変わらない日々を過ごすのは楽だった。
いつも近くにいる貴方さえも変わらなかった。
そんな穏やかな日々なのに、飛び回るハエのように貴方は僕を邪魔した。
貴方が何をしていても、僕はそれがただただ鬱陶しくて。
今までの日常を貴方は汚していくばかりだった。
離れていった僕に、貴方はいつも通り接した。
余ったその情を、別の誰かに注いだ。
ただ普通に生きる貴方が僕は嫌でたまらなくて、理由もなく理不尽に、僕は貴方をただ妬んだ。
思えば、ただ反抗したかっただけなのかもしれない。
自らの愚かさに気付いても、自分は蔑んでも、変わることはなく、それどころか僕はどこかで誰かが僕を変えてくれるだろうなんて幻想を抱いていた。
言葉なんて。言葉なんて何にもならなかった。
こうして連ねても虚空に響くだけで、言葉に人を、ましてや自分を変える力なんて無かった。
誰かの言葉を繰り返しても空っぽの心に反響するだけで、そもそも震える中身がないのだから、それに意味なんてなかった。
それでも、貴方に伝える方法を僕は言葉以外に知らないから。だから、貴方にひとつだけ。
ごめん、ありがとう。
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