優しい僕

 優しいね、と貴方が言った。その日から僕の長所は優しさになった。

 綺麗な手だね、と貴方が言った。それから僕の自慢は手になった。

 頭が良い、と貴方が褒めたから、僕は数字ばかりを気にした。

 頼れるねと貴方が言ったから、僕は全てを閉じ込めた。

 貴方が褒める度に、僕は醜くなった。

 自分を許せなかった。

 理由も分からず誇れるところが増えて、貴方の中の自分だけが大きくなって。

 貴方の言葉は呪いのようだった。

 がらんどうの僕を意味で飾って、綿まで詰めた貴方の部屋に座っていられように、僕は自分を責めた。

 本当は、ずっとゴミ捨て場にいたかった。

 拾ったのは貴方。救ったのは貴方。呪ったのは、貴方。

 ゴミ捨て場にいた僕は輝いていた。

 どうしようもない自分を許せた。

 そのままでいたかったのに。

 身勝手な貴方に救われて、僕は変わった。

 僕は貴方を許さない。

 こんなにも僕を汚した貴方を。

 絶対に。

 でも僕はから、僕は貴方を、許してしまうのだろう。

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