第5話 エピローグ5 天国は満員で異世界に転生させられることになりました

「さて、下らん芝居は終わりだ」

怒髪天の閻魔様が言うと周りの観衆は一瞬で消えて私といじめられた女の子とだけになった。


「貴様もいつまで女の胸に抱かれている気だ」

閻魔様は何故か私の胸の中の女の子に怒っているんだけど……


「いやあ、役得ですな」

な、何と女の子はいつの間にか黒服の男に代わっていたのだ。


「キャッ、何すんのよ」

パシンッ


次の瞬間私は思いっきり男の頬を張っていたのだ。


思わず胸を手で抱いた。


「貴様、何をしやがる」

黒服は叫んだが、

「何言っているのよ、変態! あんたが私の胸に顔を突っ込んでいたんでしょう」

私は怒髪天で男を睨みつけた。男の顔を胸に抱いた事なんて今まで無かったのだ。私は完全に切れていた。


「へ、変態だと、貴様が勝手に俺を抱きしめたんだろうが」

「男が女装しているなんて、思ってもいなかったのよ」

そうだ。私は決して悪くない。


「まあ、お前も自業自得だ」

「いや、しかし」

閻魔様の声に黒服がぶつぶつ言うが、


「時間が押している。次に行くぞ」

「覚えていろよ」

閻魔様の声に男は捨てセリフを吐くとしぶしぶ引き下がった。

「ふんっ」

私は忘れることにした。いや、胸に顔を突っ込まれたのは絶対に忘れないが。

でも、私はこの黒服が私の立場を決められる位置にいるのを知らなかったのだ。



「藤崎沙季だな」

閻魔様はふんふんと書類を読んでくれた。


「何! 町田万智の累者だと!」

私は閻魔様の声に懐かしい名前を聞いたような気がしたが、怒りの収まっていなかった私は良く聞いていなかった。


閻魔様は私を胡散臭いものを見るように頭の天辺から足の爪先まで見てくれたんだけど、何でだろう? 私は酷いことは何もしていないはずだ……


いや、確かに今は大立ち回りをしてしまった。何時もなら、絶対にこんな目立つことはやらないのに。やっぱり、今ので地獄行きは決定だろうか?


私は急に男を引っぱたいたことを後悔した。


「藤崎沙季、その方は先程の者のように、酷いことをしたという調書は上がっていない」

しかし、閻魔様は公平みたいだ。


私は閻魔様の言葉にホッとした。


これで天国行きは決定だ。


私が喜んだ時だ。


「何をホッとしておる?」

閻魔様が私を睨みつけてきたんだけど、何で? 今のが罪としてカウントされるの?

私は心配で心臓が破裂しそうになった。


「まさか、天国に行けるなどと甘く考えておるのではあるまいな」

「えっ?」

私は当然そうなると思っていたので、閻魔様の尖った声に驚いた。


やっぱり今の大立ち回りが良くなかったのか。そうか、黒服を引っ叩いたのが良くなかったかもしれない。なんか黒服も偉そうだし。でも、人の胸に顔を突っ込んでいたのだ。こいつも同罪じゃないか!

もし、地獄行きならば絶対に黒服も連れて行ってやると私は黒服を睨みつけた。



しかし、閻魔様の答えは私が思ってもいなかったことだったのだ。


「最近、地球の人口の増加は凄まじいものがあっての、当然死ぬ者も多い。天国は既に満員なのだ」

「満員?」

私は閻魔様の声に驚いた。


「完全に定員オーバーでな、天国に入れる人数を制限しているのだ。余程の善行をした者以外はすぐには入れん」

私は閻魔様の言葉に唖然とした。

でも、私、今虐められていた子を助けようとしたし、あれが善行に……ならないか、閻魔様の議事の進行を邪魔しただけのような気もするし、部下の黒服を張り倒したし……


私はどんどん落ち込んでいった。


「今は下手したら100年待ちもザラなのじゃ」

うっそー、天国に入るにも並ばなければいけないの? それも100年も! 私の短い人生よりも長いじゃない! 私は茫然とした。


「100年もぼうーっと立ったまま待つのも苦しかろう」

「はい、それは」

私は閻魔様の声に自然と頷いていた。ゲームなんかあればいいのかも知れないが、ここには当然そういう物が無かった。というか、周りには何も無いのだ。


こんなところで100年も待っていたくない。


「そこでだ。先ほどのその方の心意気にわしは感心した」

うっそーーーー、やった沙季ちゃん。なんであんなことしたんだろうと今まで後悔していたけど、やる時にはやるもんだ。私は現金にも喜んだのだ。


「そういう者のために、異世界転生という道もある」

「えっ?」

私は唖然とした。天国行きではなかったんだ。

でも、異世界転生って、確かにゲームの世界で異世界転生するとか、ラノベ小説やゲームでは結構流行っているみたいだったが、天国がキャパオーバーでその対策のために出来たなんて知らなかった。


「貴様はこの世界が良かろう」

茫然とする私をほっておいて閻魔様はテキパキと私の進む異世界まで決めてくれた。


「えっ、閻魔様、この女を私の世界に転生させるのですか?」

嫌そうに黒服が言うんだけど。



ええええ! この黒服、異世界を作っているの? それも私のって今言ったわよ。というとひょっとして、その世界の神様。ちょっと、私、その神様を張り倒したんだけど……


「この者はあの女の縁者だ」

「あの女と言われますと」

「私は何も悪くないと言い放って好き勝手にこの世界で行動を起こしてて、この冥界を恐怖のどん底に陥れたあの女だ」

「ああ、あの」

二人は露骨に嫌な顔をして私を見下ろしてくれた。

「?」

私は二人が何を言っているか良く判らなかった。ただ、冥界を怖れさせるほどの知り合いなんていないはずだ。


「まあ、この者ならば、あの女を抑えられるかもしれんて」

「それはあり得ないかと」

即座に黒服に否定されたんだけど、それはそれで何か嫌なんだけど。


「では、直ちに準備してくれ」

「判りました」

私は黒服についてくるように言われた。

何かあんまり良い予感がしないんだけど。


「幸運を祈る」

後ろから閻魔様の憐れみの籠った掛け声に、私は益々その予感が大きくなった。

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ここまで読んで頂いて有難うございます。

今日は出来る限り更新しようと思います。

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