2.異世界で生きていく―――サバイバル

 人類史上、卓越した力を持つ者たちの中で伝説的な存在は一握り。


 わずか300人で20万と戦ったスパルタの王、レオニダス一世。

 三国志最強武力、呂布。

 角力の原点、野見宿禰。

 西洋最強剣士、ドナルド・マクベイン。

 500戦無敗の騎士、ウィリアム=マーシャル。

 八極拳の達人、神槍・李書文。

 15年無敗、不退転の柔道家、木村政彦。



 その伝説に名を連ねる今世の益荒男たち。


 総合格闘技無敗の元柔道無差別級オリンピック金メダリスト、桐生銀二。

 軍事格闘術の最高峰、マイク・ホワイト。

 東南アジア武器術のスペシャリスト、ジェームズ・ガルシア。

 カンフーマスター、ジェット・ウォン。

 西洋武術のエキスパート、ハンス・モーガン。

 ストリートファイト最強、パトリック・ティリ。

 アフリカが生んだ超越者、マルコム・テテ。


 名立たる猛者たち。

 彼らをもってしても、敵わない男がいた。



 斧牛陸大。

 彼は『武』の対極、越えるべき壁として現れ、人類が積み上げたあらゆる武術・格闘術を『暴力』でねじ伏せた。


 体長2メートル30センチ。体重189キロ。

 握力測定不能。背筋力650キロ。

 ベンチプレス800キロ。

 100m走8秒フラット。

 非正規試合、通算成績3481戦3481勝。

 生涯不敗。


 人の能力を大幅に超えたこの男を人間と思う者は限りなくゼロに近かった。

 人々は彼を『荒神』と呼んだ。



 ◇


「おはよう、ドド」


 斧牛陸大は自分に朝の挨拶をして起き上がった。

 彼はオークの自分をとりあえず『ドド』と呼んだ。



 アフリカのとある部族の子供たちにそう呼ばれていた。

 意味は『人外』である。

 改めて冷静になり、ドラキュラ伯爵ではないと気が付いた。

 日光の元でも活動できること。そして異常な空腹を満たすものが血液ではなかったからだ。

 そこでとりあえず自分の今の状態を『ドド』と呼称することにしたのである。


「はっ! そうか!! もしかしてドラキュラ伯爵の亜種か!! それっぽい!!」



 だから違うって。



 見つけた拠点は洞窟だ。

 そこに必要そうなものを集めて蓄えた。

 水、食料の果物、野草、肉、焚火用の火打石と枯れ枝。

 獲物からはぎ取った牙のナイフ。

 暖を取るための毛皮と、服用の毛皮。



 オーク生活一週間。


 狼との戦いの後も、度々森の獣と戦闘になった。


 その中で、ドドはオークの肉体について理解していった。


 まず腕の長さ。

 リーチが長い。

 肩幅も広い。


 角の生えたウサギはすばしっこく、捕らえるためこの長い腕を上手く使うことを習得した。

 このホーンラビットの、攻撃は鉄板を貫通する威力。


 ちなみにモンスターとしての格はオークより圧倒的に上。



「はぁ……足りない」


 そのホーンラビットの骨が山となっていた。

 ホーンラビットは好戦的で向かってくるから捕らえるのに苦労はしない。

 だが食べる場所が少ない。

 おまけにオークの大きい指でさばくのはとても手間だ。


 オークの巨体を支えるだけの熱量を得られない。最初の狼の肉はマズかったが最初の一日で食べつくしてしまった。


 だんだん体力が消耗していっている。

 もっと大きな獲物が必要だ。


 ドドは獲物を求めて森を彷徨い歩いた。



 獣は豊富にいるらしいがオークは脚が短く、走るのが遅い。


 そこで囲い込みをすることにした。

 獲物を柵まで追い立てる。


 それには柵を造る必要がある。

 ドドはまず枝を組み合わせて植物のつるで固定した策を造り仕掛けた。


 見事に突破された。



「文明社会が恋しい」


 斧牛陸大が放浪生活で森に入った時は最低限の道具は持参していた。

 ナイフ。鉈。鍋。ライター。


 しかし森の中に金属などあるはずがない。



「ああ!!」



 そう思っていたらあった。


 ドドが初めて異世界で人に遭遇した。

 ただし、白骨化していた。



「人間はいるってことか。この道具もらうよ」



 草木に埋もれていたが近くにリュックがあった。



「南無~」


 ドドは骨を弔いリュックを洞窟に持ち帰り中身を検証した。



 鉄類の道具を手に入れた。

 解体道具一式が革の道具入れに入っていたため無事だった。


「ふむふむ……あとは小瓶が二つと縄か。文明レベルはあまり高くないのだろうか。いや、ガラス瓶にこの縄の強度は手工業にしては良くできている」



 他は傷んだ布と革。



 さっそく木を加工することにした。

 解体用の鋸では木を倒すことはできない。それにオークが使うには小さすぎる。


 硬い岩を割り、石斧を造った。木の取っ手と岩を固定するのにはリュックの肩の部分の革が役に立った。



「むん!!」



 木を倒した後、枝を鉈で落とし並べて縄で固定。


 柵が完成した。


 狩りはその後捗った。

 鹿のような獣を度々仕留めることに成功した。



「文明のありがたみが骨身に染みるな。感謝」



 巨大な猪に柵を吹き飛ばされることもあったが、鹿の角や骨で補強し、その猪も仕留めた。



「猪はうまいな」


 解体道具のおかげもあって手馴れてきたのか、異世界で初めて美味いと思えた。


 散策の範囲も広がり、人の落としたものらしき荷物もいくつか見つけた。風化の度合いはまちまちで年代はバラバラ。



「それにしても、全員似たような荷物だ。森の探索隊か?」




 オーク生活一か月。

 洞窟のある岩場の周りに柵を建てた。


 岩場を背に、半円状に丸太の壁を建設した。

 拾った解体セットをあれこれ改造してドリルにし、穴をあけて杭で固定する方式だ。


 かなり暮らしが安定した。


 しかし、それが仇になった。


 敵に見つかった。

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