第12話 公私のソウルスペクトル

 走っている途中、女もといニーリュ・ウェドはこんな事を言い出した。

「面白いよね。君たちには六つの魂がついてるよ。色がそれぞれ違ってて……でも温かい」

「六つ……」

 二つは恐らく、カリーの夫や息子である。しかし後四つは見当がつかない。

 走りながらそれを考えると、やがてあの場所に着いた。もうウェドは話しかけられない状況になっていた。

「ねえ、ランデブー」

「何故……来たんだカリー」

「カリーじゃないよ。ウェドだよ。覚えてる?」

 ウェドの名前を聞いたランデブーは顔面蒼白になった。初めてした幽霊につけた名前だったからだ。

「はっ、祓えていなかったのか……あぁ……」

「うん。おかげで、ずっと可愛らしい君を探せたよ……でもね」

「いなくなっちゃった。昔の君」

 ウェドが悲しい顔をした。

「俺に好かれたいんだったら……まずはカリーから離れろばけもっ……のぉ!!!」

 化け物の文字を聞き、カリーの表情は消えた。そして、ウェドが抜け出した。抜け出されたカリーはその場に倒れ込んだ。すぐにカタナがカリーを抱き起こした。

「いなくなったなら、また探さなくちゃ……」

 そう言ってウェドはランデブーに近づいた。振り回る腕をものともしていない。

「なにするの、やめて、ウェド……」

 ついに怯えるランデブーをよそに、一瞬だけウェドは振り返り、「シッ、シッ」と手で追い払う仕草を見せた。臨時に理解したカタナは、すぐさまカリーを抱きながら、背を向けて歩き始めた。

「どこにいるかな……」

 瞬間、べきべきと何かが剥がれる音が聞こえ、同時にランデブーの悲鳴も聞こえた。その悲鳴が聞こえない様、カタナはカリーの耳もなんとか塞いでいる。

「痛いよ……あぁ……」

「ランデブー!! あぁ……ランデブー……」

 今着いたらしいハネムーンも怯え、動けないでいる様だ。

「面白い、面白い。ランデブーってこんな一面もあったんだ……はは」

 悲鳴や笑い声は、しばらくカタナの耳に聞こえ、町を出る時でさえ幻聴として現れた。

 

 河川敷に着き、改めて振り返った向こうに、灯台は見えなかった。

 

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