第9話 幽霊の港ローズ・ロープ
あれから、長く歩いた。時には水上に住み、時に生物の胃に住んだりした。特に後者は、カリーの何個目のトラウマになったかも分からない。
カリーたちは、今、とある河川敷で休憩をしている。
歩いている内に、まるでコンクリート塗りの様な道が続く、そんな道を二人は見つけ、辿っていくとそこにはこの河川敷があった。
このベッド……草原に寝そべり漸くカリーは気づいた。この世界には虫が存在しないと。
怖いもの見たさか、一つも見ない虫をキョロキョロと探していると、奇妙な建造物を見つけた。
あれは……恐らく灯台だ。形は上から下にかけて魔女の鼻の如く捻じ曲がってはいる。それでも灯台だというのは分かる。
しかし、灯台というには光があまりにも乏しく、そしてその輪郭が薄すぎる。
「カタナ、何かあの灯台透けてない?」
「ふぅーん……あぁ、確かに。向こうが見えるね」
カタナも認める通りに、灯台は儚くそこに存在していた。
「次はあそこにする?」
「そうしよっか、カタナ」
二つの地を経て、二人はさらに仲が深まっている様だ。
河川敷から灯台まで向かうには、様々な種類の像があった。少しお地蔵さんに似ているものもあれば、丸っ切り写真が置かれている、頭の無い像も見た。
「ここ、なんか怖いね」とカリー。
「どんな場所なんだろう」
歩けど歩けど道には像の列。薄緑の空も相俟って、カリーにとっては異世界初のホラースポットである。
或る所でカリーの足が何か固いものに当たった。見てみると、それは骨であった。しかも頭蓋骨である。
あまりの不気味さにカリーは声も出せず、カタナを越す程の急ぎ足になってしまっていた。
「ちょっと、早いよカリー。何が起きるか分かんないし……」
カタナは途中で口を噤んだ。カリーの後ろには、男の子と男性が一人ずついたからだ。どちらも目は持たねど、優しい顔をしている。
本来ならカリーに伝えなければならないものだが、今のカリーにそれをするのは不可能である。もう少し落ち着いてから話そう。
やたらと長い河川敷を辿っていけば、次第にビル群が見えて来た。どれも窓は割れていて、人気など微塵も感じられなかったが。
「なんか……私の居た街みたい」
「カリーの街って、こんな凄い所なんだ。いや、きっともっと綺麗な場所で、さ」
「うん。働いてる人も、子どもを抱いてるお母さんも、このガラスのおかげで頑張ってるのが見えたんだよ。楽しげな街だった」
カリーの眼はまた懐かしいものになっていた。直後、遠くで鳴り響いた爆音によって、それは荒い眼になってしまった。
見た先には、薄い金色のロングヘアーをした、筋肉質の男がいた。大きな銃らしきものを持っていた。
「
「カタナ。あれは頭が良くない人だから、話しかけたりしちゃいけないよ」
「うん……」
慣れた言い方でカリーがカタナに注意した。その注意も虚しく、危険人物自らこちらに寄って来た。
「
「港?」とカタナ。
「おう……? まずここが何処か分かっていねぇみてぇだな。そんなんじゃ直ぐに憑かれちまうぞ」
「確かに、もう疲れてるけどさ」
「何い!? 何故その事態をまずく思わないんだ少年!?」
「確かに、カリーはつかれてるんだよな……」
色々こんがらがっている三人である。
「とにかく俺のアジトに来い。あぁ、まぁ住人は今まで俺一人だったから、多少の男臭さは辛抱してくれ」
「何するの?」
男は少しイラっとした。
「少年……街に入る前の準備もしなければ、空気も読まない。よくこの世界で生きていけたな……」
カリーはどこかで似た様な事を言われた気がした。
「結局、ここは何処なの?」
男は女好きらしく、先とは違い苛立ちを持たずに答えた。
「幽霊の港ローズ・ロープ。名前だけ聞くとかっこいいと思うが、ここは邪悪な霊しか存在しない、本当に不浄な場所だ」
「霊って、確か死んだ生命体の分岐点の一つだよね」
「……あぁ。よく知っているな
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