第7話 キヲツケロヨ森には

 カリーは目を覚ました。その度にいつも雷の光景が浮かび、身を震わせる。

 昨日とは違い鮮やかな光が部屋に入って来た。その光のおかげで、なぜかカリーの側に全裸でいるを見つけることが出来た。

「なんで服着てないの!? 変態って!?」

 もはや興奮など出来なかった。前世に自分がしたシチュエーションが、異世界にきて逆転したのだと理解した。こんなに罪悪感が胸を襲うのか。

「ぁ……? 朝からうるせェぞ」

「もう少しシディアを寝かせテ……」

 カリーを寝る間に犯した割には、余裕をたっぷり感じる二人である。

「犯した?」と聞くカリー。

「犯さないわけがない」と返す二人。

「どうしよう……子ども出来ちゃったら」

 眩しい朝とは対照的に、次第にカリーは落ち込んでいった。心奥にて自分の、かつて生でさせていた罪深さを思い出したからだ。

「童貞を魔女なんかに奪ワれるなんて残念だッたなカリー」

「まぁ、魔女だから頭ん中分かるよね」

「成長したねカリー。心も身体モ笑」

 一夜で心身共に仲良くなった三人は、服を着ぬままそれぞれの趣味の話をしたりした。末に、核心の喧嘩の話となった。

「そシてなぁ……姉ェさんがワシに糸をくれないから段々腹が立って来たんだよ」

「最近、アールペが姉ェさんの枕に獄蛇ジャイナを仕掛けて、あまりの激痛に姉ェさん、ぶちキレたっけ」

「うん。謝るまで肩の心臓の痛みをつけたままにされたよ。約四〇日間」

「肩の心臓……? 四〇日間……?」

 多少混乱しつつも、確かにカリーは二人の話を聞いていた。

「率直に聞くけど、サ。カリー……どうすれば仲良くなれると思う?」

「女は難しいよね。イメージが出来るよ……多分ただ単に誤ったって、ルビーは許してくれないよね」

「多分な。ワシたち以上に姉ェさんはプライドが高い」

「卑怯かもしれないけど、感情に訴えかけてみるか」

「「感情?」」と二人が繰り返した。

「うん。何か思い出のものとか、手紙を使って仲直りするんだ。一見幼稚っぽく見えるけど、特に女はこれが効くよ。勿論気持ちは本物でないといけない」

「でモ、手紙ならいつでも書けるけど、アイテムは一個もなかったと思ウ」

「はぁ?」

 カリーが眉をひそめ、声を出した。

「何その態度。またくすぐられたいノ?」

「あゃ、ごめんなさい」

 すっかりトラウマを植え付けたお仕置きである。

「そうイえば、よくあの森で遊ンだよなワシたち」

 数秒シディアが考え、ひらめきが彼女の顔に浮かんだ。

「イテエナゴラ砂漠ん所ね。あったよあったよ」

 途端、二人の顔が懐かしいものになった。

「ラメカの実のヘタで冠作って」

「時々変な野郎に遭いながラ」

「家出シた時も、失恋シた時も三人で過ごしたっけ」

 いつの間にか、カリーは母親の目で二人を見ていた。もし自分に二人の子ども、姉と妹がいたらこんな感じだったんだろうなぁ。そんな感情でいた。

「……そろソろまたカリーが変態になりそうだし」「それをお仕置きだといってアルーペが卑猥な事しそうだシ」

「卑猥じゃなイわ!!」

 とにかく、三人はイテエナゴラ砂漠を経由し、キヲツケロヨ森へ向かう事にした。


 同時刻、といっても彼女たちの目覚め。カタナがやけに浮遊感を感じた目線の先に、先に起きたらしいのルビーがいた。

「なんで服着てないの!!」

「カっちゃんの体美味しかった///」

 まるで魔女というよりはサキュバスである。カタナは、なんとなくカリーも似た様な目に遭っているのを感じ、嫉妬を孕み始めた。

「……結局、仲直りする為にはどうすんの」

「ソうだな。やっぱり手紙と思い出の品でいくか?」

(カリーも同じ事言いそう)

 その後カタナやルビーは服を着て、作り置きのダマレライオンステーキを食べた次に荷物を整えた。着替えや飲食物、魔法の本、趣味のエロ本を入れ……準備は整った。

「イくか」

「行こう」


 夜よりは穏やかな砂漠を通り、道中ヤンキーにナンパされながらも、ルビーの渾身クソダサ失恋セリフでスコーピオンらを追い払った。

 いざ入ろう森は、緑と水色の対色が美しい、不思議な雰囲気が漂っていた。

「綺麗な場所だね」

「アぁ、相変わらず不思議な場所だよ」

 中は特殊魔法により透明迷路とかしている、そうカタナは教えられた。よってルビーの後ろについていく。

 入り込んだ森の中は、童話の様な景色が佇んでいた。差し込む光、差し込まれる木陰。そこに蠢く怪鳥たちが住む、鮮やかな森であった。

「目に悪いから、一点を集中して見ない方が良い」

 ルビーの注意に従い、カタナはいちいち視点を移動させながら森を歩いた。

 途中に、とんでもなく奇抜でいて、そして美しい水色の木の実をカタナは見つけた。

「ソうだ。落ちてるきのみは食べるんじゃないぞーー……」

 もう遅かった。生まれてからのカタナの癖「ひろいぐい」にルビーの声が聞くはずもなく、一口でカタナは実を食べた。

「あーー……マぁ良いか。食って死にはしないだろうし」

「ごめん。すごく美味しい」

 呆れたルビーに続き、更に奥深くへとカタナたちは進んでいった。

 ある所、ルビーは急に立ち止まり、そこにカタナがぶつかった。

「どうしたっ……」

「声を出すな。マずそうな奴がいる」

 ルビーと一緒にそのマずそうな奴を探してみると……いた。館でのあの子の様に、フードをかぶってじっと立っている。

「昔からいたが……未だ正体が分からないんだよな。とりあえずアいつらと仲良くなるまでは触れない様にしたいから、良いな?」

 カタナは頷いた。それを合図に、ルビーが自然に、そして素早く「奴」の横を通り過ぎた。

 カタナも真似をして早く通り過ぎようとした。

 所は真横、瞬間に世界の音、動きが止まった。驚いて見た右方向には、フードの奴がいた。

「クイック・スロー、君は何処」

 顔が暗く、見えないフードが言葉を発したが、カタナは全くその意味や意図を理解出来なかった。

「クイック・スロー、君は何処」

 二度目を聞いてもカタナは分からなかった。分からなかったその胸では、スローという言葉に胸の引っかかりを感じた。

 今まで幸せだと感じた場面はいくつもあったが、全ては一回きりで良かった。ただカリーだけがカタナをスローへの空間へと引きずり込んだ。

 しかし、今はそのカタナと離れ離れ。あの時呆れて離れたのを、今最大に後悔している。恋でもなんでもしているのだろう。

 とにかく、今は早く時が過ぎて欲しいと思っていた。だから、カタナはクイックと言ってしまった。

 瞬間、なぜかフードの口角が右に上がったのが分かった。

 

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