第4話 吊り首神話

 初めて来た日と同じ色の朝。カリーはまたカタナより早く、二階寝室からリビングに降りて来た。しかしソードの姿はない。

 一応彼の部屋に向かってみた。

 扉を開けた先には、宙をゆっくり回転する、吊り首のソードがいた。

 顔色以外は、平気な様子をしていた。

「なんで……?」

 二度目の喪失に、カリーは過呼吸寸前で泣いていた。

 抑える胸が、ぼやける視界がカリーに訴えている。何がソードを殺したのか。カタナをこの先どうしていくのか。

 座り込んだ後ろに足音が聞こえ、カリーは涙を引っ込めて驚いた。そして行かせまいと手を伸ばしたが、もう遅かった。

 じっと立つカタナの目は濁っている。しかし、目以外は静かな様子で彼女は立っていた。

「死んじゃったの……ふぅん」

 存外カタナが悲しむ事をしなかったので、カリーは混乱していた。のち、悲しすぎて泣けないのでは、と考えた。

「今、色々やっておくから。カタナは部屋に戻ってて」

 そう言ってカリーがソードを弔う準備など始めようとすると、カタナがそれを止めた。

「別に弔わなくて良いんじゃない」

「何を言ってるの!!!!」

 カタナが、思いやりがないと思いかねない発言をしてしまったので、ついカリーは大声をあげてしまった。

「ごめん。こっちの世界のやり方があるよね。教えてくれる?」

「いや、別にやんなくたって良いって」

 やはり先程の発言には思いやりがなかった。カリーはあの時より弱くとも、カタナの肩を掴み、揺さぶった。

「なんで? 沢山お世話になった人でしょ」

「分からない?」

 カタナは、いきなり彼女の胸や下腹部の辺りを触り始めた。

「昔の話ね。お父さん、私が五歳くらいの時執拗にアソコを触って来たの。私は何も感じなかったし、お父さんも、本当に子どもみたいだった。性的なアレではなかった」

「……」

「でも、ソレをされた事が最近になって嫌になって来た。ずっと、ずっと嫌になって来た。お父さん以外の人が欲しかったんだ。だから」

 やはり私は伊達にお母さんをやって来ていたのだろうか。カタナの傷さえ見抜けないなんて。

「でも、何で死んだのかだけは分からない笑」

 本来戸惑うべき所ではあろうが、どうにもそれが出来ない。心身疲弊しているのだろう。

「どうする? カリー。旅に出ない?」

「……旅?」

「目に良い家だし、住み慣れた場所だから悲しいけど……でもアイツがいるから」

「でも」

「カリーは、家族だし、私のペットなんだよ。いつでも一緒にいるべきじゃないの」

 正直カタナの論理には全く賛同しない。しかし、カリーは疲弊している。前世の母に、後世の父に疲弊している。したがわせるよりはしたがう方が今は良い。

 歪な主従関係の二人、邪の風吹くままに、住み慣れた家を発つ。

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