第5話 初めての配信
「ポンちゃん、これ機材と食材!」
「おお、なんか本格的だな」
ダンジョンチューブ様のカメラは事前申告する事で後日配送される運びとなっている。
なお、今の時代は即日配送。
配送先を特定する為にダンジョンセンターの住所が必要だったことを明かしたヨッちゃん。
これさえ受け取ってしまえばこんな場所とはもうおさらばだぜ! と言わんばかりに縁切りした。
この恐れを知らぬ戦士の様な思い切りの良さ。
俺も見習いたいところだ。
そんなわけで俺たちは探索者となった。
ヨッちゃんの荷物持ち兼料理人の立ち位置である。
ダンジョンセンターで登録するとき、それなりに一悶着あったが。
ヨッちゃんの持ち前のトークコミュニティでことなきを得る。
「しっかしお前が探索者ねぇ。すぐに弱音を吐くんじゃねぇか? その上お荷物を連れてなんて」
「分かって無いなぁ。オレ一人だったらすぐ挫折確定だけど、そうならない為にポンちゃんを誘ったんすよ」
「先日の生誕祭では世話になったな。だが、それ以外での運用は少し難しく無いか? ダンジョンの中に入ったら、そこから先自分の命を守るのは自分の実力次第だ。ここで無くすには惜しい」
「そう言って頂けて嬉しく思います。けど……」
俺はまっすぐに見据えて、それでもヨッちゃんについていくと告げた。
「自分で決めたんだな。だったら引き止められねえ、こいつは調子のいいやつだけど、人を見る目は確かだ。あんたが世話してやってくれないか?」
「俺が世話になってるくらいですよ。ですが、その頼み引き受けました」
「おう、頼むぜ!」
それだけ言って、奥へと引っ込む。
「なんだかんだ、ヨッちゃんって信頼築けてるよなぁ」
「そうか〜? あれは適当言ってるだけだよ」
「にして親身にしてくれてるじゃんか」
「ま、腐れ縁みたいなもんだよ。ほら、オレってツラはいいし」
そのせいで余計なトラブルを引き込む。そこにステータスが相まって、色々迷惑かけたことを自白した。
そう思うと、俺も元の職場にたくさん迷惑かけたな。
もうあの場所に帰れないことを思うと悲しくもあるが、新しく開かれたこの旅路に同様の興奮を覚えていた。
「んじゃ、行こっか?」
「おし」
ヨッちゃんは手ぶら。
マジックキャスターである彼女は回数制限付きの魔法を使うので身動きの取りやすい服装を好む。
つまりは普段着だ。
そしてオレの荷物はリュック。
背負うタイプのものだ。
中身はダンジョン内でも発火するコンロ、まな板にヨッちゃんのランクまでに買える香辛料をいくつか。
ナイフは自前のスキルで運用する。
本当は洗い場とかも欲しいのだが、そこら辺はヨッちゃんの魔法に頼ることになった。
「あ、スライム居るじゃん。早速カメラ回そうぜ」
「スライムか」
「雑魚雑魚。塩ふりゃ萎むし、魔法一発で消えるぞ?」
「あ、いや。どうやって調理しようか考えてた」
「あー、チャンネル方針的にはそれが正解か。じゃあ一食めはスライムでいくか?」
「それで行こう」
「メニューの程は?」
「思い浮かぶ限りで三品ほど」
「素材は幾つ必要だ?」
「なるべく多めで」
「よーし、じゃあカメラ回すぞー」
ヨッちゃんはそう言ってカメラを回した。
ほぼ垂れ流しである。
唐突に始めたのもあり、誰も視聴してくれないのを予見していたのだろう。
素人がスライムをいじめてる動画など、今更誰も見向きもしない。
素材を集めたら、改めてチャンネル趣旨を解説する。
その前に、取り決めていた儀式をする。
空のジョッキに黄金の発泡酒を並々と注ぎ、空中でガツンと合わせて合言葉を掛け合う。
「「かんぱーい」」
初手飲酒。
からの、カメラはオレの手元を写す。
その横でヨッちゃんのトークが炸裂する形式とした。
スライムのお品書きは刺身とゼリー寄せ。
ところてんの様に酢醤油でいただくのもいい。
この素材の良さは旨みに直結しない。
ほぼ食感特化。
ゴブリンと似た様なものである。
「あ、このスライムのところてんは面白いね」
「酢醤油がなかったら特筆すべき点はないが……こうした裏技もあるんだよ」
包丁を素早く動かし、筋を切る。
すると寒天のような硬さが取れてとろりとした食感になる。
「ふぅむ、ふるふるゼリー食感」
「これの利点はツマミから一転デザートになることぐらいか」
「問題は味だよなぁ。酢醤油は少しマイナス査定、この食感に少し味が強すぎる」
「なので、これは果汁を絞った中に忍ばせて完成だ」
「お、カクテルみたい! 食感もいいね。女子受けしそう」
「つまみとしては弱いだろうけどな」
「こういうのは味変が大事なんだよー。割と好きな味」
「そりゃ良かった」
それからいくつかスライムの料理を披露するが、特にコメントが残されたるとかはなかった。
ただ俺たちが飲んで食って楽しんでいるだけである。
本人が楽しければいいんだって趣旨が何よりも大切だとヨッちゃんに説かれて少しだけ肩の荷が降りた気がした。
どこかで気負いすぎてた気がしたのだが、彼女には俺のことなんて見透かされてる気がしてならない。
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