第12話 青い瞳の転入生
始業のチャイムが鳴る。
一方的に話してきた(名前忘れた)君は「じゃぁ、また後で」と、自分の席に戻った。なんだ、まだ喋り足りないってか。俺はこれ以上不快な話は聞きたくないぞ。
ホームルームのため担任が入ってきた。とりあえず一限目の教科書は机に収める。
この担任は「おれの話がつまらないのか」と、目に涙をいっぱいためてわめき散らすからなあ。大人のくせに堪え性がない。とりあえず話は聞いてやるのさ。
……ん?
担任につづいて入ってくるのは女子生徒。
ザワついていた教室内は、さらに「おー、」と男子の咆哮と女子の黄色い歓声に包まれた。
それは銀色のツインテールにコバルトブルーの瞳。中学生のような体躯だが、うちのセーラー服を着ていた。
知っている。
俺は、こいつを知っている。
何故なら、こいつとはつい先程も家で会ったから。
「李生さーん、おはようございますぅ」
手を振りやがった。まるで、久しぶりに出会った親戚の女の子のように演技してやがる。
クラス中の視線が俺に集中砲火だ。
っていうか、「ビーチェ、なにやってんだ!」おもわず叫んでしまった。集中砲火は──特に男子の視線が凄まじく痛い。オハマビーチに単身で強襲をかける自殺志願の二等兵みたいだ。
それにしてもメイド服しか見てなかったからセーラー服姿は新鮮だな。これならアパートにいても……いやいや何を考えている、俺。
「あー、紹介します。はいはい、みんな静かに。えっとぉ、自己紹介、出来るかな」
「What's up?」
「あぁ、日本語わからないかな。じゃ、じゃぱにーず、で自分のことを話して欲しい」
いや、こいつさっき「李生さーん、」って思いっきり日本語喋ってたろうが。
っていうか、先生。英語出来ないんですか。確かに現国の担当ではあるけど。
「あー、オッケイ!」
銀髪ツインテールの元メイドはホワイトボードにさらさらと自分の名前を書いた。それは流暢な、紛うことなく、正確な縦書きで『星野ビーチェ」と日本語で綴ったのだ。
教室内がまた「おー、」と感涙の声に包まれる。そして『星野』の苗字に気づいたクラスメイトらは俺に再び強い視線を向ける。
「えっとぉ、」
ポケットからメモ書きを取り出した。それを読み上げる。
「わたしは、カナダから、きますた。留学生の、星野ビーチェですう。このクラスの星野李生の、親戚でぇすぅ……、あー、日本にいる間は、李生さんのご両親にぃ、お世話にぃ、なっていますぅ。みなさん、仲良くしてください……ああ、なるほど」
最後の納得はなんなんだ。そのメモは誰が書いた。
「ええっとお、じゃあ席は」
「ご心配なく、自分で説得できます」
担任の指定をやんわり断り──そうだよな、この場合のパターンとしては、
「李生さんの隣に座りますから移動をお願いします」
隣に座っていた気の弱そうな男子生徒の机にドンッ、片手をついて見下ろした。
ビーチェは得意の「にんまり」顔のまま顎をしゃくる。曰く「あっちへ行け」と。
もとより、俺の友人知人でもない隣の男子は「うん、」と素直に返事をして後ろの空き席へと移動した。
「ビーチェ、おまえなぁ……」
「李生さんのことは、常にお側でお守りいたします。ご安心ください」
「なぜ、言わなかった」
「言いましたよ、お弁当つくりましたって」
「弁当の話じゃねぇ。おまえが、このクラスに生徒として来るって話だ」
「そこの二人、ホームルーム中だぞ。そんなにおれの話を聞きたくないのか」
担任が中年男のヒステリーを発症したので、とりあえずこの話は後だ。
昼休みまで微妙に距離を取りつつ、授業間の空き時間のたびに「紹介してくれよ、星野くぅん。おれたち友達だろぉ」と友達でも無いのに言い寄るクラスの馬鹿どもを無視し続ける。
ときおり、こちらへ視線を向ける倉木祥子に困惑する。
いかん、俺の純真潔白な性格が疑われている。クラスの馬鹿どもに何を思われようが気にもならんが、倉木だけはいけない。あとでちゃんと説明せねば。
俺は愛想笑いをしつつ、とりあえずその場はやり過ごした。
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