第一章
第11話 キャンパスライフは爽やかに
カラスのように真っ黒い学ランの集団が、どやどやとバスを降りた。
スクールバスじゃない。平均的県立高校にそんな予算があるわけないのだから。地元バス会社が運営している在来線だ。
うちは共学だが、なぜかこの時間帯は男しか乗り合わせない。
一般客も殆どいない(まれに高齢のおばあさんが病院へ行くのに利用する)から車内はまるで男子校の有様だ。
野太い声ばかりが元気にはしゃぐ。
何をそんなに興奮する必要があるのか。毎朝同じ日常だろう。変わることの無い日々──降り注ぐ旭陽の暖かさを静かに楽しめないのかね。ほんと情緒の欠片もない連中だ。
とはいえ、こういう雰囲気は嫌いじゃ無い。むしろ活気があるのは脳への刺激に良いだろう。と、校門を眺める。
「我が母校か」
昨晩あんなことがあったからなのか、愛着のようなものは芽生えていた。
青春のキャンパスライフ?
いやいや、そこまでの感情は湧き上がらないな。
だが俺自身は、そんな浮ついたことに興味はない──あ、
校門付近で家の人に送ってもらった委員長『
肩まで流した黒髪。ほっそりした体型をきちんとプレスした紺色のセーラー服に包み、切れ長の清んだ眼はインテリ風の薄い眼鏡で覆っている。
女子高生らしからぬ、いやある意味女子高生らしい優美な立ち振る舞いは見た目からして良家の子女だ。
こんな何の変哲もない、特段進学率が良いわけでも、何かしらスポーツで有名なわけでもない地方都市の県立高校に彼女が通う奇跡。
「星野くん、おはよう」
暖かな声色は天使だった。朝日が後光のように照らしている。
本当に奇跡のひとつでも起こしそうな、そんな清楚で可憐で神々しい美少女だ。
むろんライバルは多い。
と、いうか俺も生徒会の一員であればと、普段は『モブ的通りすがり人』を堪能しているはずが、彼女の笑顔に癒やされた途端後悔の念が脳裏を過る。
「少し疲れてるのかな、眠そうね」
天使が心配してくれた。
「昨晩はいろいろあって……まあ、大丈夫。すぐに追い出して日常を取り戻すから」
「追い出す?」
「ああ、いや。こっちの話」
一般的労働者階級な人々しか住んでない県営アパートのせせこましい一室に、華美なふりふりフリルを散らしたエプロン姿のメイドが給仕してるって光景……爆笑モノだよなあ。
ご近所さんの物笑いの種になる前に追い出さねば。
少なくとも、あのメイド服は辞めさせよう。
そうだよ、あの服装がいけないんだ──いやいや、それ以上に日本刀だな。警察から家宅捜査なんてやられたら家族全員が銃刀法違反で牢屋送りだ。今夜にでも山か海へ捨てに行かせよう。っていうか異世界へ捨てにいかせて、そのまま向こうへ帰ってもらおう。
天使とふたり、教室に入ると相変わらずザワついていた。
このクラスはいつもそうだ。落ち着いて授業まで予習でもしていればいいのに、と俺は席につくと鞄を開いて教科書を取り出す。
「おい、星野」
今日は珍しく朝から声をかけられた。
教科書に眼を落としたまま生返事をする。
「なに」
「おまえハーフだったんか?」
珍妙な質問に顔をあげた。
にやけ顔の……ええっと、名前なんだったけ?
「俺が純血種の日本人かどうかなんて、顔を見てわからんか」
「意識したことなかったからなあ、言われてみれば西洋人っぽくもあるかな」
自分がハーフ顔と思ったことはなかったから、強気に対応しつつも、この(名前忘れた)君の指摘には少しビビった。
昨晩の話がなければ「ばーか、日本人に決まってんだろ」と突っ返すところだが──そうか、俺の顔って一般的日本人とは少し違うのか。
「それで、何の話だよ」
俺は予習に忙しいのだ。結論から先に言え。
「海外からの転校生の話に決まってんじゃん。おまえの親戚なんだってな。佐々木と一緒に職員室で見かけたんだよ、スゲぇ美少女じゃん」
「……待て、それはどういう」
「金髪ってのは見たことあるけど、あれなに、銀髪っていうのかな。眼は綺麗な青色で肌がむっちゃ白くて、それで背丈ちっちゃいんだけど、ちゃんと出るとこ出て絞まるとこ絞まってて、」
壮絶に嫌な予感がした!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます