第10話 日常への帰還
「李生、いつまで寝てるの。遅刻しても知らないわよ」
どんより睡眠に落ちた重い
薄目を開けばカーテンの隙間から朝日が差し込んでいた。
ええっとぉ、俺はどうしていたんだっけ?
目覚まし時計をセットすることすら忘れてベットへ潜り込んでいたようだ。
なんだか躰の節々が痛い。歯磨きをしながら記憶がぼんやりと蘇る……そうだ、あれからどうなった!
人の気配を感じて振り返ると、そこには皺くちゃなジャージ姿で眠そうに立つ中年のおっさん──父さんがいた。
「歯磨き、まだ終わらないのか。そろそろ父さんに場所を空けてくれないか……ん、李生。どうした。変な夢でもみたのか」
俺の父さんは
それにしても、やたらとリアルな夢だったなあ。
リビングへ向かう。
テーブルは既にトーストと卵焼きが並んでいた。
コーンスープにアボガドのサラダまである。
今日は、納豆と味噌汁じゃないんだな。そんなことを考えながら椅子に座った。
「李生、顔は洗ってきたの? 目が死んでるよ」
母さんが心配そうに覗き込んでくる。優しい瞳と笑顔。間違いない、俺の母さんだった。それにしても──アマンダ。ぷっ、くくくっ。
「なに、朝っぱらから思い出し笑いなんて。大丈夫なの?」
「なんか、今日は躰が重いんだよ。変な夢のせいだと思う」
「それはいけませんねぇ……あ、コーヒーどうぞ」
「ありがとう……ん?」
顔をあげたそこに、日本刀を背負った戦闘メイドがにんまり笑顔でコーヒーを差し出してきた。
「おおっ、おおーっ!」
変な悲鳴が出た。
「なんですかぁ、わたしの顔になにかついてますかぁ」
「なんで、ここにいる!」
「なんでって、皇子の護衛に決まっているでしょう。向こうへ帰れない、刺客はやってくる。だとしたら、わたしの役目は家族の一員として、一緒に暮らすことです」
「母さん、何とか言ってよ」
それまでフランクに話していた我が母、星野真理恵はキリリと口を結び、他人行儀に頭をさげてアマンダ・セラフィムになった。
「殿下、しばらく母親役を続けさせて頂くことになりました。と、いうことで──早く食べなさい。遅刻するわよ」
再び真理恵に戻った母さんから追い立てられるようにトーストをかぶりついた。
遅れてリビングに現れた父さんも「あなたも、なにやってんですか」と叱られている。それを受けて父さんは「ネクタイをしらないか」と、とぼける。
いつもの日常だ。
そのはずだった。
「李生さん、」
県営アパートの朝の家族団らん。そこに不釣り合いなメイドが俺を名前で呼んだ。少しビビる。
「な、なんだいきなり」
「お弁当を作りました。どうぞ」
……ありがとう。
前言撤回。俺の日常は当分戻って来そうになかった。
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