第4話 親子と両親
ここで違和感に気づいた。
これまでの話を全部信じるとして──政変と言ったな、皇帝は今、どうしているんだ。
それに流浪の民、国を追われたという意味だよな。
けれど帰国を待つとはなんだ。
そもそも、そんな国どこにあるんだ。地理や歴史の授業では教わってないぞ……この世界?
「この世界ってなんだよ。その、わけわからん国はどこにある」
「ダ・ヴィスコンティ帝国はこちらの次元とは別の……そうですねぇ、こちらの
メイド──ビーチェ・アルファーノと言ったか、俺と歳の近そうなその女はベビーフェイスに悪戯っ子のような憎々しい表情をいっぱい浮かべて講釈を垂れた。
どうやら、こいつは自尊心が高すぎて
それにしても異世界って、ますますラノベじゃねぇか。
「ビーチェ、その国はいまは存在しないんだな」
「はい。政変と大戦争で国家としては存在していません……さきほど説明致しましたよ。同じ説明を繰り返し求めるのは皇位を継ぐ者として、能力に疑問を抱かれかねません。ご注意下さい」
こいつ、いちいち突っかかる物言いするよな。だが、わからないのにわかったフリをするのは駄目だろう。ビーチェを質問攻めにする。
「皇帝はどうなった」
「憎き共和派の暴徒により
「共和派ってなんだ」
「我ら皇帝派の敵です」
「皇帝派ってのが、おまえらか」
「その通りです。いまは共和派の
「それで、俺はその滅びたはずの地へどうやって帰るんだ」
「向こうの世界へ戻るのは難しいことではありません。戻られてから帝国再建のためご尽力頂きます。皇子は共和派と戦うための象徴に御座います。多くの帝国
……冗談じゃねぇ。なんでそんな面倒くさいことになってんだよ。
戦うって、何それ、暗殺とかで死んじゃうかもしれないんだろ。っていうか皇后もギロチンで首ちょんぱされてんじゃねぇか。
皇后って、つまり俺の本当の母親ってことだよな。
両親へ視線を向ける。
齢四十のいい歳した大人は高校生の息子に土下座したままだ。
「母さん、父さん、もうやめよう。これまで通り親子でいようよ。っていうか、俺は信じないよ。んな素人丸出しなネット小説に落ちているようなご都合主義で設定破綻な話。信じろってほうが無理だろ」
ここで、はい。
押し入れの中からドッキリカメラがどーんっ、って……出て来ないな。
「びびっちゃいましたぁ、ぷー、くすくす」
童顔どんぐり
「当たり前だろ、俺は物心ついたときから日本人だ。日本で育って、日本にたくさんの友人……知り合いだっている。それを見ず知らずの人間がいきなりやってきて『実は、あなたは異世界の皇子だったのです!』と言われ、はいそうですかと納得出来るやつがいるのかよ」
「うん、そうですよねぇ」
おろ、ずいぶん素直に同意したな。
「わたしも上司に言ったんですよ。生まれがどうであれ、今は愚民と同化して貧乏くさい庶民生活を謳歌している一般人ですよ、って。帝王学ひとつ受けてないゴミに
このやろう。
「皇子とは初めてお目にかかりましたが……まさか、わたしと歳の変わらぬ青二才とは思っていませんでした。もっと頼りがいのある大人で目鼻立ちのキリリとした、貧しくとも希望に満ちた輝きを秘めた、一瞬で恋に落ちそうなオーラをまとった偉人だと考えていたもので──綺麗な顔立ちなのは認めますが。ハッキリ言って残念です」
こいつ言いたい放題だな。
「まー、良いです。とりあえず食事にしましょう。冷蔵庫のなかにあった庶民用の魚や肉ですが味は保障します」
おい、それってうちの食材だろうが。
だがビーチェの提案に乗ることにした。いまだ床の上に土下座している両親を椅子へ座らせるためだ。
それに、確かに良い匂いがする。腹が『ぐぅぅっ」と鳴った。
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