第3話 帝国の真実

 ……ダ・ヴィスコンティ? アルファーノ? 戦闘メイド?



「ハッキリ言おう、まったく意味が分からん」


 ビーチェだかアルファーノだか知らんが、ちびっ子メイドは俺の両親に対しキツい眼差しをむけると「伝えてなかったのですか。使い物にならない護衛官ごえいかんね」とふてくされた。


「申し訳ありません。よもや、ご帰国がこれほど早まるとは想定外でした」

 親父は娘ほど年の離れた女の子に対し、土下座のまま深々と謝罪した。


「父さん!?」



「落ち着いて聞いてください。あなたは星野李生ではありません。わたしたちの息子では無いのです」



「父さん、いったい何を言ってんだよ。母さんも、どうしちゃったんだよ」


「ごめんなさい。これまでの非礼の数々お許しください。でも、より授かった本当の子供だと思って育ててきました。その気持ちに嘘偽りはありません──あなたはどこに出しても恥ずかしくない自慢の息子ですよ」



 これはなんだ?

 ドッキリカメラかな。


 あの押し入れの中にカメラマンが潜んでいて、俺が困惑し半べそかいてる姿を撮影するや「大成功!」と書かれたプラカード片手に笑顔でハッピーエンド。放送翌日には学校にも笑顔を届けてハッピーエンド。

 せめて委員長の倉木くらき祥子しょうこだけはテレビを見ないで欲しい。




「ご納得頂けたら早めに食べちゃってください。今夜、地球時間で22:00ふたふたまるまるに出発します」


 メイドが通り一辺なアナウンス口調で伝える。



「だから、待てと言っている。ぜんぜん、説明になってないだろう。これはいったい、どういうことなんだよ」


 ジッと俺を見つめるメイド。

 その瞳は哀れみというより、あきらかに「これだけ説明を尽くしたのにまだ理解出来ないのか」という小馬鹿にした態度だった。口元が『にへらぁ』と嗤っている。このやろう。



「あなたは、かつて存在したダ・ヴィスコンティ帝国の忘れ形見なのですよ。お産まれになってすぐ政変と大戦争に巻き込まれ、あなたの本当の父上であられる皇帝のちょくにより、この世界へ避難されました。そして、この世界の人間としてお暮らしになられていた。そこの──」


 両親をあごでしゃくると、

「ふたりは皇子の護衛官です。ここで目立たぬよう潜伏するため家族を演じ、両親になりすましていました」


 ふたりは土下座のまま、

「「ロターリオ・ダ・ヴィスコンティ皇子。ながらくのご不便申し訳ございませんでした」」



 ますます意味が分からん。


 なによりも──ロターリオってのが俺の本名だと?


「父さんも母さんもやめろ、そんな真似。俺は息子の李生だよ。息子に土下座なんてするんじゃねぇよ!」


 気分が悪い。




「わたくしどもは一介の使用人ですよ、殿下。あなたさまはバウンデット・ダ・ヴィスコンティ皇帝の血を受け継ぐロターリオ皇子。あの日より流浪の民として屈辱にまみれている臣民たちの希望の星にございます」



 ジャパニーズ・ドゲザな両親と違って、メイドの方は背中の日本刀を自身の前に鞘ごと置くと右脚の脛を床につけ、左膝を立てて頭を垂れる──騎士が王に跪く独特なポーズをした。


 そして、うって変わり真摯な態度で言った。

「皆が、高貴なる皇太子殿下の帰還を心待ちにしております」


 ツインテールが揺れた。


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