第2話 家族ゲームのおわり
嫌な予感は的中した。
否、予感の内容は違っていたが──家が破壊されているんじゃないかと不安だったが、どうやらそれは取り越し苦労だった。
こういうパターンの場合、あのモンスターが家まで押しかけてきて……いや、あのアタオカなメイドが押しかけてきて大暴れ。機動隊に自衛隊まで出動して県営アパートは戦場と化す……ってのは、まあ無いか。
いかんいかん、ラノベばかり読んでいるわけじゃないんだがな。少し冷静になろう。俺はもう17歳だ。子供は卒業だ。
そうだよ、さっきのアレはやはり夢を見ていたんだ。
疲れているんだなぁ、気をつけよう。今日から睡眠時間を30分増やそう。母さんに叩き起こされても、それだけは譲れない。
いつも通り、我がマイホームである三号棟へ入る。階段をあがって三階の隅の部屋へ。鍵を開けて「帰ったよお」と玄関を開けたら……俺に向かって土下座する夫婦がいた。母さんと父さんだった。
……いや、は?
帰宅早々の玄関口で、両親から突然土下座された子供の気持ちを考えて欲しい。
真面目一筋で
「おまえの母ちゃんって、なんで、ときどき敬語なの?」
いつもは母親らしく「
「これだけは守って頂きとう御座います。ワガママは仕える者たちを失望させます」
それは父さんも同じで、成績順位が委員長の倉木を抜いて首位になったとき「よく頑張りました。あなた様は本当に素晴らしい御方だ」と眼を細めて賞賛してくれた。
そして今日の両親は特におかしかった。むちゃくちゃ、おかしかった!
だが、それ以上に台所がおかしかった!
「なんで、あの女がいるんだよっ!」
中流サラリーマン家庭がこじんまり生活する県営アパートの一室。
鼻歌まじりに料理を作っているフリル付きエプロン姿には覚えがあった──だが、月光の下で切っ先鋭い刃を弄んでいたときより背は小さく感じた。
全体的にちっちゃい。
同い年に見えたが齢下かもしれない。
あきらかに『外人さん』と推察される銀色の髪はツインテールに結んでいた。
透明感すら感じるほどの色白美少女だ。
むろん、つい先程モンスターをざっくり切り捌いたあのメイドに間違いはなかった。
刃先の長い刀を包丁に持ち替え、今度は魚を捌いている。
切り方が上手い。職人レベルだ……いやいや、そういうことじゃない。
背中に日本刀を背負っているメイドなんてあり得ないだろう。
銃刀法違反だよ──もっとも「おまりさーん、こいつですぅっ」て通報したところで、このファンタジーメイドは
ここは見なかったことにしよう。
「聞いて欲しいことがあるんです」
母さんは胸元で両手を合掌し祈るような仕草で嘆願する。
「そういう他人行儀なしゃべり方やめろって言っただろ」
「我々の任務は完了致しました、殿下」
今度は父さんだ。っていうか自分の息子に『殿下』ってなんだよ。
ふたりとも、いったいどうしたんだ。っていうか父さん仕事は?
「おまたせしましたぁ、さあ召し上がれ」
親子の会話をぶった切って、メイドはにこやかに料理を並べはじめた。
「いやいや、ちょっと待てよッ!」
場の空気を無視して自分の役割(?)だけを淡々とこなすメイドに強い声が出た。
女子に大声をあげるなんて俺のキャラじゃないが、さすがにこっちも混乱している。許してもらおう。
もっともメイドは
それどころか平然とした態度で、
「好き嫌いはダメですよ。なんでも食べないと大きくなれません」
などとトボケる。
「……そういう事じゃない。っていうか、俺は小さくない」
メイドは突然顔を赤らめた。
「食事どきですよ。そのような
なにか誤解しているふうの愚痴を呟きながら「ちゃんと席にお座りください。テーブルマナーは教わっていないのですか」と憮然とした。
「だから自己紹介しろ、きみは何者だ」
こいつは鈍感なのか天然なのか、回りくどい言い方をしてもダメだと気づいた。のらりくらりと、このまま両親に混じって食事会に持ち込まれてしまう。
ここは直接問いただすのが正解だろう。
「これは失礼を致しました……」
と、いいつつちっとも反省の色を見せないドヤ顔口調で
「わたくしはダ・ヴィスコンティ家に代々仕えるアルファーノの娘で、名をビーチェ・アルファーノと申します。皇子ご帰国までの護衛を命じられた戦闘メイドにございます。お見知り置きを」
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