17輪目【敗北を知った無敵】

 つよい。

 一言で言ってそれに尽きる。


 あたしの友人なおちゃんは、とにかくメンタルがつよい。

 それはもう驚くほどにメンタルがつよい。

 まず初めにいくつか例を挙げよう。

 なおちゃんは、クラスの男子に馬鹿にされても、テストで赤点を取っても、どこかにお財布を落としても、お父さんお母さんにこっぴどく叱られても、横断歩道で車に跳ね飛ばされても、何でも『まっいっか』で済ませてしまう。

 まるで、その一切合切が取るに足りないことのように。

 本人はまったく気付いていないが、正直に言って、あたしが最初、彼女に抱いた印象は、『こいつ、やべー』だった。


「ねぇ、なおちゃん。頭、大丈夫?」

「何が?」

「や、さっき勢いよく電柱にぶつけてたからさ……」

 あたしはなおちゃんに頭を見せてと言う。

「……うん。血も出てないし、大丈夫そうだね」

 無事だったことに安堵し、ほっと大きく息をつく。

「りりかちゃんは心配性だなぁ」

 なおちゃんはけらけらと笑うと、また勢いよく電柱に頭をぶつけた。

「もうっ! 少しは気を付けてよっ!」

「あははは。大丈夫大丈夫!」

 何かあってもまるで動じない、メンタルつよつよななおちゃんに、あたしはふんっとそっぽを向ける。

(いつだってなおちゃんのこと心配してるのに、全然気にしてくれない。もう知らないんだからっ!)

 あたしが不貞腐れていると、なおちゃんは首を傾げて『どうしたの~?』と言ってきた。

「自分の心に聞いて」

「分からないよ~」

 あたふたとするなおちゃんを見て、あたしはぷっと吹き出してしまう。

 喧嘩しているように見えるかもしれないが、こう見えて、あたしたちはとても仲が良い。

 なおちゃんはどうか分からないが、あたしは自分にないものを持っている彼女を心の底から慕っている。

 むしろ慕っているどころじゃなく、好きと言っても過言じゃない。

 いや、好きと言っても過言じゃないどころか、ぶっちゃけ大好きだ。

 可能であれば、なおちゃんとずっと一緒に居たい。

 そう思っている。

「……なおちゃん、あたし、いつか絶対あなたを負かしてやりたいと思ってるから」

「んん? 何が?」

「こっちの話! 気にしないでっ!」

 あたしが怒ったようにそっぽを向くと、なおちゃんは静かに口を開いた。


「……ぼく、もうとっくに負けてるよ」


 驚いて傍に目を向けると、なおちゃんが頬を赤らめながら下を向いていた。

 そして、上目遣いがちにこう言った。

「だって、キミのことが大好きだから」

 なおちゃんが顔を真っ赤にしながら、にっと笑う。

「えっ! えっ!?」

 突然の告白にあたしはしどろもどろになる。

(いったい何が起きてるの!?)

「りりかちゃん、ぼくとずっとずっと仲良しでいてね」

 なおちゃんがあたしに手を差し出す。

(あわわわわっ!!)

 あたしはその手をおっかなびっくり握り返した。

「……なおちゃん」

「ん?」

「あなたはやっぱりメンタルつよつよだよ……」

 怪訝そうな表情を浮かべるなおちゃんだったが、あたしが笑うと、すぐさまけらけらと大きく笑った。


 〝この子には絶対に勝てない〟


 心の中で強くそう思うあたしであった。

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