13輪目【小悪魔は無邪気に笑う】

「ねぇ。ちゅー、しよ」

 義理の妹のゆいが突然そんなことを言い出した。

 少し前に親の再婚で家族となったあたしたちは、二歳違いの姉妹である。

 今、あたしたちは、あたしの部屋で各々まったりとしていた。

 あたしはテレビゲームに夢中だったが、ゆいもベッドの上で漫画に夢中……だったはず。

 テレビゲームを中断すると、あたしは背後を振り返り、そして視線をゆいに向ける。

「は? 急にどうしたのよ?」

「どうもしないよ。あかりお姉ちゃんとちゅーがしたくなったの」

 意味が分からない……。

 あたしはテレビに向き直り、再びゲームの続きをする。

 が、ゆいが後ろからピッタリとくっついてきて、ゲームどころじゃなくなってしまった。

「いやいや、ちゅーがしたくなったって、あたしたち姉妹なのよ」

 正気に返れと、わたしはイヤイヤをする。

「でも、血は繋がってないじゃん」

「そうだけど……」

 血が繋がっていなければ良いという話ではない。

 あたしはそれをゆいに伝える。

 しかし、『いいからいいから、そういうのいいから』と、強引にチューを迫るゆい。

 耐え切れなくなったあたしは、ゆいのお腹に肘打ちをかます。

「ちょおっ! 痛いじゃんか!」

「ゆいが変なことしようとするからでしょ!」

「……だって、わたしあかりお姉ちゃんのこと好きだし。チューくらい良いじゃん」

「姉妹でなんて絶対に駄目! もし遊び半分でそんなことしたら、あとできっと後悔するわよ」

 本当は怒っていないが、軽く怒ったような態度を取るあたし。

 それに対し、ゆいは沈黙。

 しばらくして、泣き声が聞こえたので、あたしはばっと背後を振り返る。

 あたしに言われたことが余程ショックだったのか、ゆいは大粒の涙を零しながら大泣きをしていた。

「えっ! えっ! ええっ!?」

 あたしは吃驚し、ゆいを抱き締める。

「ごめん! あたしが悪かった! ちょっと強く言い過ぎた!」

「……もう怒ってない?」

「怒ってない怒ってない。というか、最初から怒ってはいないよ」

「……あかりお姉ちゃんはわたしのこと嫌いなの?」

「嫌いなわけないじゃない。ゆいはあたしの大切な妹だよ。だから、変なことはしたくないんだ」

 ゆいを抱き締めながら、背中をポンポンと叩く。

「……本当?」

「当たり前じゃない。あたしの素直な気持ちだよ」

「良かった! ……でも、そのままわたしを抱き締めたままで聞いて。わたしね……」

 何かを打ち明けようと、ゆいが一呼吸置いた。

 しばらくして、小さく口を開く。

「実はわたし……、あかりお姉ちゃんのこと……」

「な、何よ?」

 突如として緊張感が訪れる。

 (まさか姉に対して告白するつもり!?)

 あたしは全身にじっとりとした嫌な汗をかく。

「あのね――!」

「う、うん……」

「あかりお姉ちゃんのことは、お姉ちゃんとして好きなの」

「は?」

 一瞬、何を言っているのか分からなかった。

 予想外の告白に吃驚したあたしは、ゆいの顔をまじまじと見てしまう。

「だから! あかりお姉ちゃんのことは、お姉ちゃんとして好きなの!」

 モジモジと赤面しながら、ゆいは再び普通のことを言った。

「い、いや、分かってるわよ。そのままの意味で受け取っていいのね?」

「そうだよ。ぷぷぷっ、どんな意味で受け取ろうとしたの?」

「知らないわよっ! このバァーカ!」

 この小悪魔めが。腹が立つが正直少しドキドキしてしまった。

「わたし、お姉ちゃんとはずっと一緒にいたいなぁ。だって、からかい甲斐があって面白いんだもん」

「あたしは面白くない! もう早く自分の部屋に帰って!」

「まあまぁ。そんなに怒ると、小じわが増えるよ」

「小じわなんか最初からないわよ!」

 あたしとゆいはジタバタと小競り合いを続け、そのあと、互いにベッドの上に乗った。

 そして、どちらからともなく、『ねぇ』と言うと、二人してお先にどうぞと言った。

 あたしたちはぷっと吹き出す。そして、手を繋いでこう言った。


「「死ぬまでずっと一緒にいてね」」


 互いに互いが事実上のプロポーズである。

 あたしはプラトニックな関係もアリだと思う派だ。

 だから、ゆいとはきっとそういう関係になるんだと思う。

 未来のことは誰にも分からない。

 でも、一つだけ分かることがある。

 あたしたち姉妹の絆は、この先もずっとずっと続く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る