12輪目【テトリス】

 わたしの彼女は、背がとても高い。

 高一にしてその身長は既に百八十センチメートルはある。


 傍から見て、彼女はとても目立つ。

 が、それは、彼女が高身長だからというだけじゃない。


 彼女の彼女――つまり横にいるわたしが、平均を下回るかなりのチビ女だからだ。


 わたしたちは、低身長と高身長のカップルということで、学校では凸凹カップルと揶揄されている。


 実際、彼女と横に並ぶと、親子ほどの身長差があるので、周りからそう揶揄されるのは仕方がないことなのかもしれない。


 しかし、ここのところわたしは、彼女との身長差に不満を持ち始めていた。


 今、わたしたちは、わたしの家で二人きりだ。


 彼女と話すには良い機会だと思っている。


「……ねぇ、今更なんだけどさ、一つ言っていい?」

「ん? どうしたの?」

「わたしね、かれんとキスをする時、もう背伸びをして見上げながらは嫌なの」


 唐突に、本当に唐突に、かれんに打ち明ける。


 かれんは笑いながら、分かったと言った。


 そして、わたしの両脇に手を入れると、身体を高く持ち上げて、『たかいたかーい』と言った。


「……もういいわ」


 そういうことじゃない。

 わたしはかれんのお腹にグーパンをする。


「なんか機嫌悪いね、もも」


 何が駄目だったのか分からないと言った素振りで、かれんはしゅんとする。


「……わたしね、真正面からかれんを見下ろしたいの。真正面からかれんを見下ろしてキスをしたい」

「大事なことだから、二回言ったの?」

「そうじゃなくて!」


 わたしは再び、かれんのお腹にグーパンをする。


「もも、自分で何を言ってるか分かってる? あたしたちの身長差から言って、ももがあたしを見下ろしながらキスをするのは、物理的に無理だよぉ」


 半べそをかきながら、かれんはごめんねと言った。


「……何か、きっと何か方法があるはず。無理を通しなさい、かれん!」

「ええーっ……!?」


 かれんは腕を組みながら、顎に手を当てて、『うーんうーん』と考え出した。


 しばらくして、かれんが口を開く。


「ももって背は小さいけど、態度はでかいよね」

「何?」

「なんでもなーい」


 失言失言と言いながら、かれんは声をあげて笑う。


 もしかして、聞こえてないと思っているのだろうか、こやつめは。


 五分ほど経過した頃、かれんは仰向けに倒れた。


「つーかーれーたー!」


 大して時間は経っていないのに、かれんは小さな子供のように駄々をこねる。


 そして、


「ねぇ、膝枕して」


 と、言ってきた。


 何も成果はなし遂げていないのに、ここに来て見事なおねだりである。


 ニコニコ顔のかれんに対し、わたしはしかめっ面を浮かべてしまう。


「怖いよっ、もも! ほら、スマイルスマイルっ!」


 わたしは大きく息をつく。


「……いいわよ。ほら、来なさい」

「わーい」


 かれんがわたしの膝の上に頭を乗せる。


「あのね、もも」

「何よ?」

「あたしにとって、ももは、自分よりもずっと大きな存在だよ。だから、少し背が小さいことくらい気にしないでね」


 わたしの目を見つめながら、かれんが破顔一笑する。


「――ほら、今なら見下ろしてるよ」

「わ、分かってるわよ」


 初めての上下逆転に、わたしは焦ったような素振りを見せる。


 そんなわたしを見たかれんは、妙に落ち着いた様子で、『大丈夫だよ』と言った。


 かれんの優しい手がそっとわたしの頬に触れる。


「……んっ」


 心地よい緊張感でわたしは小さな吐息を漏らす。


 そして、互いに目を瞑ると、そのままいつもとは違うキスを交わした。


「……どうだった?」


 ニマニマ笑いのかれんが、わたしの頬を指でつついてくる。


「……まぁ、その、気持ち、良かったかな」


 恥ずかしさでかれんの顔が見れない。


 そんな中、かれんはわたしに抱きついてきた。


「大好きだよ、もも」


 好意には好意で返す。


 わたしはかれんを抱き締め返した。


「……もも、一つだけ言っていい?」

「突然何よ?」

「やっぱりももは小さいね」


 かれんの手がわたしの胸をまさぐっていた。


「こ、この、バカーっ!!」

「あははははっ」


 どこまで行っても、わたしたちが〝凸凹〟カップルということは、この先も変わらない。

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