2輪目【いつだって神様は願いを聞いてくれない】
「なぁ、みきは誰かとキスをしたことってある?」
漫画喫茶のファミリールームで、二人で漫画を読んでいると、りこが突然変なことを口にした。
「な、ないよ。急にどうしたの?」
「漫画にね、キスは〝幸せの味〟って書いてあったんだ。それってどんな味だろうと思って」
興味津々というよりも、未知への憧れに、りこは顔を真っ赤にしている。
わたしはりこに問題のシーンを見せてもらう。
漫画には二人の女の子が抱き合いながら、涙目でキスをしている姿が描かれていた。
「り、りこはこんなことをしたいの?」
「……う、うん」
恥ずかしそうに下を向き、小さく頷くと、りこはわたしの手を取った。
「みき、試しにしてみない……?」
「えっ! キスを!?」
「みきはあたしとじゃ嫌かな……?」
「そんなことないけど……」
ここだけの話、わたしはりこが好きだ。
ずっと、秘かに思いを寄せていた。
もしも、もしも叶うなら、りこと此処で結ばれたい。
(……でも、キスをした瞬間、わたしたちは〝大人〟になってしまうんじゃ……)
「みき、目を瞑って……」
りこの顔が近付いたと同時に、わたしは目をぎゅっと瞑った。
「……ん」
わたしたちは唇を重ね合う。
どのぐらいの時間そうしていたのか。
キスをしている間は、何分にも何十分にも感じた。
そして、
「……何の味もしないな」
「うん……」
「でもさ、なんか胸が凄くドキドキする」
「わたしも」
「……ねぇ、もう一回しようか?」
わたしたちは手を繋ぎながら、舌と舌を絡め合う深い口づけを交わす。
しばらくして、どちらからともなく口づけを止めると、りこは大きく笑いながら、こう言った。
「……別に何も悪いことをしてないのに悪いことをしているような気分だよな」
「わたしも思った」
「……まだまだしよっ」
*
「……やっぱり何の味もしないな。大人になったら分かるのかな?」
「……わたしは大人になんかなりたくない」
「あたしは早く大人になりたいな。大人になれば〝幸せの味〟が分かるかもしれないし」
わたしはりこのおでこにデコピンをする。
「いたぁ! もう、何だよ!」
わたしは大人になんかなりたくない。
大人になってしまったら、この永遠が終わってしまうから。
わたしはりこと二人で、この永遠をずっと共にしたい。
お願いです神様。
どうかわたしたちの成長を止めてください。
お願いです神様。
どうかわたしたちの〝今〟を奪わないでください。
嗚呼、神様。
あなたはとても意地悪です。
〝実の姉妹のわたしたちは、決して結ばれることはないのだから〟
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