貴方に捧ぐ百合の花

木子 すもも

【SEASON1.】

1輪目【たとえこの恋が叶わなくても】

 わたしの親友みさおは、今現在恋をしている。


「あやかはさ、男の子を好きになったことってある?」

 学校からの帰り道、みさおはふとそんなことを言った。

「……分からないよ、そんなの」

 わたしは不貞腐れたように、ぶっきらぼうにそう返す。

「あたしはね、今好きな人がいるんだ」

 頬を赤らめながら、少し照れたような素振りで、みさおはわたしの目を見てくる。

「……ふーん、どんな人?」

「えへへ、秘密」

 わたしとみさおは小学校からの付き合いで、一緒にいてそれなりの年月が経っている。

 彼女はわたしが何も知らないと思っているのかもしれないが、それはまったくもって大きな間違いだ。

 秘密の彼。

 わたしはそれが誰か知っている。

「みさおに好かれるなんて、気の毒な人ね」

「何よ、どういう意味?」

「だって、あなたにはわたしがいるじゃない」

「……あやかが側にいるから、あの人が迷惑しちゃうってわけ?」

「そう」

 冷静に、そう至って冷静に、わたしは言った。

「バカ!」

 ふくれっ面のみさおが、わたしの頭をポカリと叩いた。

「あやかのことをそんな風に思うやつなんて、こっちから願い下げよ。あやかはいつだって、あたしの側にいなきゃ駄目よ」

 みさおが目を細める。

 そのほほえみ、その愛らしさが切なくて、わたしの心は締め付けられたようになる。

 彼女の黄みがかった美しい髪が思わず撫でたくなった。


 ――わたしは、

 女であるみさおのことが好きだ――。


 しかし、この気持ちは伝えてはならない。

 彼女は今、恋をしているのだから。

「ねぇ、あやか? あやかも好きな人が出来たら、あたしにちゃんと教えてね。好きな人は別に教えてくれなくてもいいから」

「……考えとく」

「もー、何よそれー」

 嗚呼、この想いをあなたに打ち明けられたら、どんなに嬉しいか。


 『わたしはあなたのことが好き』。


 それだけ。

 たったそれだけのことが、どうしても打ち明けることが出来ない。

 嗚呼、あなたの心の片隅に、少しでもわたしという存在がいればいいのに……。

 可能なら、今すぐにでもあなたを抱き締めたい。

 ――でも、あなたには、わたしが見えているようで、見えていない。

 それがわたしにとって、どれだけ苦しくて辛いことか……。


 ――ねぇ、みさお?

 もしも、わたしの気持ちに気付いてくれているのなら、何も言わず手を握って――。


 たとえわたしのことを好きじゃなくてもいい。

 わたしはあなたと手を繋ぎたいの。


 あなたがあの人の名前を出すたび、

 あなたがあの人に笑顔を向けるたび、

 あなたがあの人と手を繋ぐたび、


 わたしはわたしでいられなくなる――。


 だから、お願い。

 どうか、わたしの手を握って……。

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