第66話 ベスト
思いもよらない所から実はベストカップルみたいな組み合わせは存在するのだろう。俺が言った一言は菅野にとっては言われたくなかった事なのかも知れない。現に普段の彼女の事を話した所で、急に切り替えるなんて事は出来なかった。
けれどもヒロタカさんと菅野はそれがきっかけで付き合い始めるまでには至らなかったが、本音で話せる友達から始めようという事になった。
本当は同じ様な事は結構あるんじゃないだろうか。
二人と別れた後、俺は駅の近くに居たこともあり加奈達に連絡をとりそのまま田中さんの所に行こうと考えた。
「それで菅野はどうやったん?」
「なんだかんだで上手く行きそうだよ」
「ヒロタカさんも男やからなぁ」
理由としては間違いではない気もするのだが、まぁそこはプライベートな事でもあるので聞かれるまでは置いておこう。
「それで、二人は空いてる?」
「まひるから連絡くるのまっとったんや」
「急で悪いんだけど、『ソドム』で待ち合わせしない?」
「なんでまた、ライブでもあるんか?」
「いや、ヒロタカさんから田中さんが時間ある時に顔出して欲しいって聞いたから」
「そういう事かいな。時間あるしええんちゃう?」
ひなちゃんも同意したとの事で、俺たちはソドムで合流する事になった。俺がついてから数分後に二人が到着すると、どうしてもライブの日を思い出す。
「久しぶり……でもないな。そんなに開いてへんけどなんか懐かしく感じてまうわ」
「記憶にしっかり残っちゃってるからね」
「まぁ、今日は顔を出すだけって事だし何か話したい事でもあるのかも知れないね」
まぁ、あらかた予想はついていた。ライブハウスがバンドに用があるのは出て欲しいライブがある時がほとんどだ。基本的には電話で連絡したりするのだが田中さんは会って話したいタイプなのだろう。
まだリハーサルも始まる前、『ソドム』に入ると事務所のドアを叩く。入り口が開いていた事から田中さんはいるのだろうと思っていた。
「おはようございまーす」
「おはようございます。 今日はどうしたんだい? もしかしてヒロタカくんに聞いたとか?」
「はい、挨拶遅れてすみません」
「いやいや、そんなに急いだ話では無かったのだけどよかったら座ってよ」
俺たちはボロボロのソファに座ると、田中さんは机の上を簡単に片付けてこちらを向いた。
「あの日は中々バタバタしてて話せなかったからね」
「そうですね……」
「それで、どう? あのライブはいい経験になったんじゃない?」
ただ話したかったというのもあるのだろうか?
「実力あるバンドばかりで、色々と勉強になりました」
「リクソンくんとも繋がったんだよね? 彼は厳しい事をいうタイプだけど、成長に繋がると思うよ」
「そうですね……今度レコーディングしてもらうかも知れないです」
「彼が言ったのかい?」
「まぁ、半々ですかね。見学をさせてもらってレコーディングの条件を聞いた感じです」
「ふむふむ……そうなると、価格の面か何かで悩んでいるのかな?」
ふと田中さんはそう言った。
「それなんですけど、価格は後払いでええて言ってくれはったんです」
「あのリクソンくんがねぇ……」
「ですけど、今バンドでテーマを作ろうって話してまして」
「なるほど。それで三人の意見が纏まらないと」
「そうなんです」
そういうと田中さんは不思議そうな顔をした。
「俺はテーマはもうあると思うけどね?」
「どういう事ですか?」
「言わんとしている事は分かるよ。纏まっていないから方向が分からないみたいな感じといえばいいかな。だけど、バンド名はテーマが無いと出来ないかなって俺は思ってるよ」
確かにそうだ。
スターラインはきっとヒロタカさんの意思が反映されているのだろうし、ドリッパーズもそう。
「スターラインとかドリッパーズってバンド名に意味あったんですか?」
「そりゃあるよ。その二つなら聞いた事もある。スターラインは願い事の後押しをしてくれる流れ星とスターへの道を掛けている。ドリッパーズに関してはナカノくんは才能を搾り出すって言ってたけど、ジュンくんはその時にしか出せないブレンドを作るって話だったよ」
「ドリッパーズは解釈ちゃうやんけ!」
「まぁ、それぞれ思いはあってもいいんじゃないかなぁ」
田中さんの目線は今までにアドバイスを貰った人とはまた違う方向から見ている様に思えた。
「ところで『hung out paty』の由来は何かな?」
「ハンバーガーのパテや!」
「溜まり場の女の子」
「ハンバーガーとライブを掛けている……」
「えっと……全員違ってもいいとは言ったけども」
「なんでや。ハンバーガーのパテをカッコいい英語風にいうたんちゃうんか?」
「響きはそうだけど、英語の意味は溜まり場の女の子のアンダーグラウンドな感じがオシャレっていう」
「ひな、そうだったの?」
「まーちゃんも?」
「てっきり溜まり場が広がって……ライブになるみたいな話かと思って居たのだけど。パティクロスのパティとパーティを掛けているんじゃないの?」
「ちょっとちょっと、揉めるのは無しで頼むよ」
「すみません……」
すると若い男のスタッフが笑いながら話しかけてきた。
「おもろいっすね。でもいいんじゃないっすか、勢いがあって。意味なんて後付けでなんとでもなるっすよ」
「そうだね。迷っているならバンド名をきっかけにするのもいいかも知れない」
「せやなぁ。肉汁たっぷりのどんなライブに挟まっても存在感バツグンのバンド! ええやないか」
「加奈、それもうハンバーガーのパテじゃん!」
「だけど、意外といいかも知れない」
「まーちゃんも! でも確かに……」
田中さんはニッコリと笑い呟く。
「ライブだけじゃなくて、音源としてもいいコンセプトかも知れないねぇ……」
思いもよらない所からベストな答えというのは生まれるのかも知れない。また、そんな日は一日に何度も起きてしまうのかも知れないのだと俺は思った。
「そういえば、ライブの話じゃないんですか?」
「そうそう、西田さんが知り合いのバンドの対バン相手にってオファーくれているんだよ。豊橋では結構有名なガールズバンドだから一緒に出てみないかなと思って」
それって結構重大な話じゃないですか??
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