第65話 相性

 タキオと話してから数日が経った。あれ以降、彼から入れ替わりの話が来る事は無く、Tシャツのデザインのやりとりを何度かしただけだった。


「ライブTシャツ作るんはええけど、ライブせん事には成果報酬も払われへんのちゃう?」

「折角作ってくれるのに売る場がないのは確かに申し訳ないよね……」


 タキオの目的から、その事に関しては大した問題ではないのかも知れない。けれども契約した以上、ちゃんと売る場所を作る事は考えないといけない。


「テーマもあれからすすんでへんし、なんかうちら八方塞がりになってへんか?」

「既存の曲ではライブ出来るけど、今やるべきかは悩むよね……」


 俺の中でテーマに入れる事は決めている。だが、バンドとして纏める為にはどうすればいいか悩んでいた。


 そんな中、教室で話していた俺たちに弱々しい声で話しかけて来る奴が居た。


「ねぇ……」

「なんや、菅野やん。なんか覇気が無くなってへんか?」

「確かに元気は無さそうだけど、どうしたの?」


 菅野と言えば、ヒロタカさんとデートをしたはずだ。……いや、本当にしたのかまで確認はしていないが、あれだけプッシュしたのだからきっとしたのだろう。


「相談があるのだけど」

「うちらに相談って、斬新やな?」

「加奈、煽るのは止めなって。きっと彼の事だよ」

「ああ……そうなんか?」


 今までの菅野からは想像も出来ない位にしおらしい様子でモジモジとしている。デートが上手く行かなかった様には見えないのだが、一体どうしたのだろうか?


「こないだ、デートしたんだけど」

「それやったら……うぐっ」


 その瞬間、俺は咄嗟に加奈の口を抑える。デリカシーというものは俺もある方ではないが、ここで「知ってる」なんて言う事がデリカシーが無いと言うのだけは分かる。


「何?」

「いや、続けて?」

「うん……。映画に連れて行って貰って、一緒にカフェに行ったのだけど……」

「なんや、あかんかったんか?」


 加奈の言葉に菅野は首を振ると、顔を赤くして手を差し出した。その手の上には小さな小瓶が乗っている。


「帰り際に、今日の記念にって……」

「ヒロタカやるやん」

「貰ったの?」


 彼女はコクリと頷くと、勢いよく俺の肩をつかみ顔を近づけた。


「まひるちゃん、どうしよう。私本当に彼の事好きになっちゃったんだけどっ!」

「なんや、惚気かい。っていうか、好きやからデートに誘ってたんちゃうんかい」

「いやまぁ……いいんじゃない? ヒロタカさん悪い人ではないし、優しいとも思うよ」

「でもね、次どうすればいいか分からなくて。バンドの人って女の子慣れしてるし、モテるだろうからこれ以上近づくのは難しいのかなって」


 ライブでの様子を見る限りでは、女の子より男の子に人気がある感じだった。ジャンルてきにも男受けの強いじゃんるだから自動的にそうなるのだろうけど、女の子からはモテていると言うよりは友達としてと言った形が多いきはする。


 現に俺たちに相談していた位だからね。


「ヒロタカさんはまぁ、恋愛とか慣れてないとおもうよ」

「そうなのかな?」


 今日の菅野はなんか可愛いな!


「多分……」

「そしたら、付いてきてもらっていい?」

「はい? デートに? いやいや、そういうのは二人でやってもらって」

「こんな事を頼むのはおかしいのは分かっているのだけど、呼んで欲しいって言うか」

「いやいや、デート誘ったんだよね?」

「気になりすぎて連絡できないのっ!」


 うん。女心はよく分からん!

 とはいえ、菅野が勇気を出して俺に頼んできたのだからそれくらいはしてやってもいいかと思い、ヒロタカさんを呼び出す事にした。


 菅野の意向でなぜか二人で行く事になると、俺は菅野の何を話せばいいかわからなかった。


「こんなにすぐに来るなんて、本当に仲がいいのね」

「バンド仲間だからね」

「本当にそれだけ?」

「それ以上に何があるの?」

「それならいいのだけど……」


 もしかして、ちょっと嫉妬されてたりする?

 気まずい空気の中、あまり下手な事は言えない。なるべく話さない様にして早く来てくれないかと耐え忍ぶ事にした。


 待ち合わせの時間が近づくにつれ、菅野は俺に隠れるように体を寄せ小さくなる。本当に好きなんだなと思っているとヒロタカさんの声が響いた。


「お疲れっすー!」

「お疲れ様です」

「こ、こんにちは」


 ヒロタカさんは菅野を見ると明らかにギョッとした様子を見せたものの、すぐに切り替えた所は流石だと思った。


「ああ、夏美ちゃんも一緒?」

「はい。付いてきちゃいました」


 うん、二人ともだれだ?

 それより、俺は本当に必要だったのか?


「まひるちゃん、そういえば田中さんが時間ある時に顔出して欲しいって言ってたよ?」

「そうなんだ。また今度加奈とひなも連れて行ってくるよ」

「ところで今日は何の用事だったの?」


 いつもの喋り方じゃ無いから違和感はあるものの、これはこれで爽やかな感じはする。


「菅野さんが、ヒロタカさんに会いたいって言うから」

「ちょっとまひるちゃん!」

「なかなかストレートっすね……」

「ダメ……でしたか?」

「そういう訳じゃ無いんだけど。それってもしかして告白するとかそういう感じ?」


 ヒロタカさん自身はどう思っているのだろうか?

 デートの時にプレゼントをあげたくらいだから、嫌がってはいないのだろうけど、この言い方だとあまり希望はないかも知れないな。


「こ、告白します!」

「いやいや、菅野さんもわたし居るよ? こういうのは二人きりとかの方がいいんじゃない?」

「でももう、ほとんど言ってる様なものだし」

「まぁ、そうだけど……」

「ヒロタカさん、好きです!」


 展開はやいな!

 会って数分で告白とか、どういう展開だよ!


「ああ……夏美ちゃんは可愛いし、いい子だと思うのだけど。俺にはもったいないっていうか」


 そうきたか……告白はする方の勇気が取り上げられやすいがされる方も好きな人とかが居ると大変なんだよなぁ。特に可愛かったりいい子だったりすると特にね。


「もったいないなら付き合ってよ」

「ううん……嘘はよくないか」


 まぁ、菅野ならそれくらいの押しはあるよな。だが、ヒロタカさんも理由はある様だな。


「俺、結構Mだからもっとキツい子の方がいいっていうか、清楚で優しい感じの子は違うんだよね」

「そうですか……」


 あれ?

 ちょっと待てよ、菅野も納得しているみたいだけど……


「あの、ちょっと割り込んじゃって悪いんですけど、ヒロタカさんそれ本心ですか?」

「そうっすよ、告白してくれたからには俺も曝け出すしかないっすからね。 性格悪いって言われるくらいのほうが好きで、ふとした瞬間に見せる優しさにグッと来るんすよ」


「……えっと、菅野さんがピッタリだと思うんですけど」

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