第46話 安全運転
一度は断ったものの、駄々をこねるジュンさんに雅人が説得され、一緒に乗り込む事になった。
意外にもハイエースの中は、ギターやアンプと言った機材で背後に三人乗るとそれだけでいっぱいになり、雅人は助手席に乗る事になった。
「この人が運転しはるん? 大丈夫かいな?」
「なにぃ? 心配なの? これでも交代で全国を運転して回ってるよ?」
「ほんなら、まぁ……」
「点数もあと一点残ってるし!」
「いや、ほぼアウトやん! ほんまにちゃんと残ってんやろな!?」
「ダイジョブ、ダイジョブ 気軽にいこまい」
「絶対あかんやつや……まひる、うちが死んだらベースとグローブは棺に入れてな?」
「多分加奈が死ぬ様な事になったらわたしも無事では無いと思うよ?」
「あかん、一緒に乗ってもうてるやーん」
意外にも走り出したジュンさんの運転は思っていたよりもゆっくりだった。
「捕まったのは大体進行妨害だから大丈夫さ!」
「遅過ぎて捕まったんかい!」
とはいえ、今は大分慣れたとの事で法定速度を超えない程度に走っているとの事だ。だが、それよりも俺たちが何処に連れて行かれるかが心配で仕方がなかった。
「えっとギターが上手いのは関西弁の子かな? 確かにどら美人だがや」
「うちはベースや」
「ならそっちの上品で可愛らしい子じゃんね?」
「私はドラムですけど?」
「ほっかー、ツッコミの子がギターか……」
「なんでちょっと不満気なの!?」
ツッコミの子って、確かにそうではあるのだけど。だがこれでジュンさんが学校にまで来た理由がなんとなく分かった。
「もしかして、ジュンさんが来た理由って」
「そう、可愛い女の子に会いに来た!」
「そっちなの!?」
「ヒロタカの奴が可愛い女の子で、ギターが上手い子がいるっていうから来たんだらぁ?」
「ギターの方じゃ無かったんだ……」
「もちろんそれもある。ただ、そっちは自分で見てみん事にはわからんじゃんね?」
彼は相当な自信があるのか、それともいいギターというのは好みの問題だと考えているのか……。どちらにしろ思い立ったらすぐに行動するタイプである事は間違いない。
しばらく走り市内を出る。本当に何処に連れて行かれるのだろうかと不安になっていると、コンテナの様なプレハブが並ぶ所に着き車を止めた。
「ほんまに怪しいんやけど!」
「ここは俺たちの練習場所だよ?」
「急に標準語になるんやめいや」
「それが逆なんだよね。集中してるときに話すとつい出ちゃう❤︎」
「可愛い無いわ! あんな運転で集中しとったんかい!」
車を降りると田舎の草むらの様な匂いと共に、プレハブの中から重低音が響く。練習スタジオにしているというのは本当らしい。
ジュンさんがドアを開けようとすると、勢いよくドアが開き怒声が響いた。
「おいジュン! 遅えぞお前、また
「ヤッホー、ナカノちん!」
「ヤッホーじゃねぇわダラが!」
あまりの勢いに俺たちは呆然と立ち尽くす。チンピラみたいなお兄さんがそれに気づくとニコリの笑いプレハブから出てきた。
「悪いないきなり」
「あ、いえ……」
流石に加奈ですら、勢いに負けたのか大人しい返事をする。
「俺はドリッパーズのベースボーカルのナカノだ。ジュンの奴がどうしても中学校にいきてぇって言うから……行かせた」
「行かせたの!?」
「行くなっつっても聞かねぇんだわ」
「そ、そうですよねー」
「おい、タカも挨拶しとけ。アレがうちのドラムのタカだ」
「ウス!」
雅人よりは小さいものの、顔が凶悪過ぎる。
「コイツはまぁ、こんな顔だがプリンが好きだからライブの時にでもカフェに連れて行ってやってくれ」
するとタカさんは少し照れた感じで何度か頷いている。ふとドラムセットを見ると隣にプリンのキャラクターのキーホルダーが付いた鞄を見つけてしまう。もしかして、この見た目で可愛い物が好きとかいうやつか!?
ナカノさんと話して居る間に、ジュンさんはギターとアンプヘッドを車から降ろしてきた。ケトナーのアンプにエクスプローラー、動画で見ていただけにギタリストとしてのワクワクが止まらない。
「まひまひもケトナー好き?」
「はい……って何その呼び方!」
「あー、ジュンは勝手にあだ名をつけるから気にしないでくれ」
気にするかしないかは俺がきめるのでは? とは思ったものの、ナカノさんが癖の強い二人をまとめて居るのだと思うと何も言えない。
「ジュン、一緒に練習って言わなかったのかよ。楽器持って来てねーがや」
「サブ使ってもらおうかなってね?」
「まぁ、いいけど。拉致って来たみたいになってねぇのか?」
「なってます!」
「はぁ……やっぱりなぁ。まぁ仕方ねぇ、とりあえずそう言う事だから宜しく!」
どうゆう事!?
だが、プレハブの中には予備のギターやベースが何本か有る。演奏する分には確かに問題は無さそうだった。
SGに、レスポールスタジオ、Vもあるのか……俺がギターに目をやる度にジュンさんが反応する。俺は赤茶色のスタジオを手にとるとしっかりとメンテナンスされて居るのがわかり、少し嬉しくなっていた。
「お目が高い!」
「そうですか?」
ただの消去法だ。SGは重心がズレているしVはそもそも座って弾くのに慣れてない。
「うちも使ってええんか?」
「おう、今使っている以外のベースはジャズべしか残ってないけどな!」
「うちもジャズベやから助かりますわ」
「あとは……ドラムは二人居るのか。まぁ三人で交代して使ってくれ!」
「ウス!」
「はい!」
「うす!」
「ひなもその返事なの!?」
「まぁ、可愛くていいじゃねぇか」
まぁ、可愛いけど。ボケているのか意外と形から入るタイプなのかは気になる。
「最初は俺らが見せるか。一応PV出している曲やるから、ギターも入れたら入ってくれていいぞ?」
俺の方はハイパワーのメサに繋いでいる。曲も軽くは弾いているし、レスポールとの組み合わせは昔経験した事もあり、直ぐに合わせられそうだ。
コクリと頷くと、それまでボーっとしていたタカさんの表情が変わりツーカウントを入れると、二人がいきなり飛びそれと同時に曲が始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます