第42話 恋ですか?

 ライブハウスを出た後、街のど真ん中に来ていたという事もありどこかに寄ろうという話になった。


「女の子ばかりだし、ラーメンよりはお茶かな? 雅人はどう思うすか?」

「何で俺に振るんですか!」

「いやぁ、女の子の扱いには慣れてるかと思ったんすけど……違ったすか?」

「慣れてるって、どんなイメージなんですか! 別にコイツらはドラマーか力持ち位にしか思ってないんですって」

「別に侍らせてるとは思ってないすけど……」


 すると加奈が痺れを切らした様に二人に割ってはいる。


「気になるんやったら目の前におんねんから聞いたらええやんか!」

「そうそう、こういう奴なんです!」

「加奈ちゃん、やっぱりなんか見た目とのギャップが凄いっすね……」

「兄さん、それ褒めてはるんか?」

「まぁ、フィフティっすかね……」

「あんた、一応イケメンなんやからもっとはっきりしいや!」


 そう言って加奈はあたふたしているヒロタカさんに肩を組んだ。リトルリーグに居た事もあり、彼女には抵抗がないのだろう。


「ちょっと加奈。ヒロタカさんが照れてるでしょ」

「なんや? イケメンの癖にうちに照れてんか?」

「ヒロタカさんのヒロタカが大変な事に……」

「ちょっとひなちゃん何とんでもない事ぶっ込んできてんすか! もしかしてそういうキャラなんすか!?」

「だからさっきくら言ってるじゃないですか……見た目に騙されたらだめなんですって」


 雅人が言いたい気持ちはわかる。それにしてもあの菅野を一目で堕としたルックスがあるのに意外とヒロタカさんはモテてはいないのだろうか?


 結局近くのチェーン店のカフェに寄ると、改めてゆっくり話した事がなかったと気づく。座ってから直ぐにヒロタカさんはバッグを漁った。


「とりあえずチケット30枚でいいすか?」

「15枚がノルマで後はバックなんやったなぁ」

「もし足りなくなったらまた雅人に渡しておくっすよ!」

「文化祭効果ですぐ売り切れるやろ!」

「山本、いっとくけど、チケットを売るのはそんなに甘くはないからな?」


 加奈は謎に自信があるみたいだ。雅人を勧誘して来た早さを知っている俺は虚勢を張っている訳ではないのだと分かっていた。


「それで、新しい『hung out paty』は順調なんすか?」

「曲は一曲出来ているので、後二曲位作って五.六曲で出れたらとは思ってます」

「なるほど……」

「ただ、練習する所が中々ないんよなぁ」

「練習か……俺の時も大変だったっすよ。中学生だとバイトもできないっすからね」


 加奈だけなら自宅で手伝いというバイトをしている事もあり多少はどうにかなる。しかし、俺やひなちゃんはお小遣い制という事もあり中々厳しい状況ではあった。


「そう言えば土曜日とか日曜日の昼とかなら児童館とか安く借りれるっすよ? 中学生なら今でもタダで借りれるかもしれないっす」

「本当ですか?」

「まぁ……アンプとかは持っていかないといけないしドラムセットもスネアとペダルは持参した方がいいっすけどね」

「それならうちのアンプ貸してやるよ。店でイベントが無ければほとんど使う事ないから先に言ってくれたら貸す事位はできるぜ?」


 それはありがたい。ヒロタカさんも中学生の時に色々と考えていたのだろうと思う。もしかしたら彼の先輩などから受け継がれる形で教えてもらっているのかも知れない。


「ほな行ってみよか!」


 ヒロタカさんのおかげで練習の目処が経った。週一だけでもアンプを繋いで合わせられるというのは大きい。


 雅人の家でという候補もあったのだが、営業があると言う事と雅人自身の練習時間を奪う事にもなる為、いざという時に使えるというだけで充分ありがたい話だった。


 そんな中、学校で菅野夏美に話しかけられた。

 文化祭以後、特にこれと言って関わりがあった訳ではなかった事もあり、少し新鮮な気分がした。


「木下さん、バンド活動はしてるの?」

「一応次のライブは決まったよ」

「そう……」

「えっと、菅野さんは?」

「私達はユニットで活動するより、それぞれで活動するのが主体なの」

「スプライトで活動している訳じゃないの?」

「そうね。あれはあくまで文化祭用のチームになるわね」


 菅野の話では、ダンサーは学校やスタジオ経由ででユニットを組んだりはするものの、普段は個人でオーディションを受けバックダンサーやイベントなどに即席で入るのだと言う。


 もちろん、バンドの様に個人で組んでハコのイベントに出る事もあるが、それは比較的少ないらしい。


「結構違いがあるんだね」

「その分企画などでユニットを組めれば、色々なサポートはあるし、チャンスはあると思っているのだけどね」


 確かに、自ら作詞作曲を行い演奏する事でステージを作る事が出来る俺たちとは違い、オリジナルをする為のハードルは高い。代わりにオーディションから出るとちゃんと分業されている事で最初からしっかりとしたバックアップがある可能性が高いという訳か……。


「けれども人を集めないといけない事に変わりはないわ。貴方達はどうやって集めるつもりなの?」

「それは……声をかけたり」

「それほど友達がいる様には見えないのだけど?」


 痛いところを突かれている。基本的にメンバー以外とはヒロタカさんくらいしか絡みがない。文化祭の実績があるとはいえ、どのくらい呼べるのかといわれたら正直なところ運任せだ。


「まあいいわ、考えて無かったのね。まぁ、実力に自信があるのならまずは知ってもらう事ね」

「そっか……」

「いくらいいパフォーマンスが出来ても、知られなければどうする事も出来ないもの」

「もしかして……アドバイスしてくれてるの?」

「バカ言わないで。あなた達に人気が出なかったら負けた私達の立場が無いだけよ」


 もしかして、菅野はツンデレなのか?


「あと……あの人も一緒に出るでしょ?」

「あの人?」

「メガネの……お兄さん」

「ヒロタカさんの事? うん、一緒に出る事になっているよ?」

「……わよ」

「ん?」

「だから、チケット買ってあげるって言ってるの」


 本当にツンデレなのかよ!

 意外な形で初めてのチケットを買ってくれる事になった。なんだかんだで菅野はカーストトップの女の子で加奈やひなちゃんが居なければ普通に美人な方だと思う。少し女王気質はあるものの、コミュニケーション能力もかなり高い方だろう。


「ヒロタカさんならあんまり女の子に免疫は無さそうだからいいかも知れないね」

「本当に? ……いや別に、彼が好きとかじゃないけどね」

「話したいなら、ライブの時に紹介しようと思ったんだけど、」

「……お、お願いします」


 可愛いなぁ、おい!


 恥ずかしそうに顔を赤らめる菅野が、思春期の女の子らしく不覚にも可愛いと思ってしまった。

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