第2話 わたしは誰?
「俺って美少女だったっけ?」
と、冗談はさておき、情報量の多すぎるこの状況にはついて行くだけで精一杯だ。
そう言えば昔、
つまり俺は元々美少女だったか、死んで生まれ変わった際に記憶を取り戻したのかという疑問が沸く。そもそもこの子がどんな生活をしていたかなんて記憶は全く無いし、これから何をすればいいのかも分からない。
先程偶然にも
とりあえず、自分が誰でここがどこなのかを調べる為にもこの子の情報を持ち物なんかで探ってみる必要があるのだと思った。
こういう時に指紋証というのは助かる……。
他人のを見ている様な罪悪感はあるものの、あくまで自分のスマートフォンだ。開いてすぐに俺はカレンダーが表示されていた。
「俺の記憶の三年前かよ……」
過去の時間というまさかの状況に戸惑う。SNSをみても今すぐに必要な情報というのが見つからないと思った俺は、机の上にある鞄から教科書や生徒手帳みたいなものを探し特定する。
【木下まひる】、中学二年生の女の子だ。
学校名が分かれば最低限スマートフォンで学校にまで行く事は出来る。あとは仲のいい友達をある程度覚えておけば、多少は誤魔化す事もできるだろう。
せめて男子だったならアドリブでどうとでもなりそうな物なのだが、この子は女の子だ。最低限気をつけておかないと学校で変な形で浮いてしまう事になる。俺は頭をフル回転させせめてロールモデルになる様な女の子を思いだしイメージした。最初はコピーを完璧に、基本ができてから自分の表現をしてこそギタリスト精神というものだ。
そうと決まれば早速俺はこの木下まひるという存在をコピーしようと決めた。SNSでのチャットの履歴からの対応のパターン、学校のノートの書き方や字の
そうこうして行くうちに友達からメッセージが来るという早速最初の問題が出てきてしまった。
『今日は休み?(悲しいマーク)』
過去の履歴からも仲のいい子なのだろうという想像は付く。【ひな】という名前からしてきっと同級生の女の子なのだろうと思う。少し安心したのは履歴にほとんど男の名前がない、この子のポテンシャルからすれば彼氏がいてもおかしくはないのだが、まだそれほどマセてはいないのだろうと
仮に彼氏がいたとしたら、流石の俺もどう対応するべきか悩んでいた所だ。とりあえずはその心配が無さそうではあった。しかし、既読をつけてしまった以上、何かしらの返信をしなくてはならない。
『ごめん、ちょっと体調が悪くて……』
当たり障りの無い感じではあるものの、違和感は無いだろう。とはいえ現代の女子中学生のメッセージのノウハウがある訳では無い俺は『ゆっくり休んでね』という返事が来るまでは少しばかり緊張した。
休んだ事を心配されるなんていつぶりだろうか。ありきたりな返事ではあったものの、スタンプや業務連絡ではないという背景から、なんとなく本気で心配してくれている様な気がしてほんの少し罪悪感を感じていた。
とはいえ、いちいち感傷に
彼女の
問題は、身近な人の違和感をどれだけ消す事が出来るか……変わったと思われたとしても、反抗期や心境の変化程度に思ってもらえるくらいには誤魔化しておきたい。
なるべく情報を叩き込むと、一階に降りこの家を調べてみる事にした。父親とはまだ会ってはいないものの寝室の様子から共働きで健在なのだろう。家も比較的
風呂やトイレの場所を確認したあと、再び二階に戻る。廊下の突き当たりに部屋を見つけた俺は念の為に開けておく事にした。
少し散らかっており、壁には知っているバンドのポスターが貼ってある。ベッドの隣にあるスタンドに立てかけられているギターに目に止まり惹きつけられてしまった。
エピフォンのレスポール。高校生だとしたらそれなりにバイトやお小遣いを貯める為に頑張らないと買えないレベルのギターだ。置いてある物からして二つか三つ位上の兄がいるのだろう。
それはさておき、目の前にギターがあるなら弾いてみたいと思うのは、もはやギタリストの習性みたいなものだ。吸い寄せられるようにレスポールを手にするとベースとギターの間の様にネックは太くボディもやたらと大きく感じる……いや、このギターが大きいのではない。俺が小さくなっているんだ。
少し不安になりながらも簡単にチューニングをする。弦が古くなってはいるものの普段からそれなりに手入れされているというのは分かり、勝手に触ってしまった事を申し訳なく感じた。
少し弾きづらいが、慣れれば問題は無い言った感じか。多少指の柔軟を行えば、難しいフレーズも問題なく弾ける様になるだろう。
準備運動がてらにクロマチックスケールを弾いてみる。やはり慣れないサイズ感は若干ミュートが甘くなるな……パッと聞いた感じでは、音楽をしていない人にはわからないだろうが中級者ともなればこの辺りはシビアに分析されてしまうだろう。
「お前なに勝手に俺の部屋に入ってんだよ?」
油断した。急にかけられた若い男の声に俺は、すぐ様状況を理解し冷や汗で背中を濡らした。
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