第37話 疑惑と大使の素性
一旦、人間の町へと戻る僕ら。
診療所で待っていたセリアは言う。
「毒の特定が出来たわよ~」
ハンスはニコニコで答える。
「お、相変わらず仕事が早いな」
「頑張ったもの~」
「じゃ、さっそく聞かせてくれよ」
僕たちは集まって話を聞く。
「これは生物の分泌物に含まれる毒が由来の肌荒れね」
僕は聞いてみる。
「生物の毒?」
「そう。動物が身を守る為や獲物を仕留める為に持ってる毒」
隊長はセリアに問いかける。
「毒と言うと、蛇か?」
「ううん、今回は別。ヘビ毒ではないわね」
ローナが驚いて尋ねる。
「そこまで分かるんだ」
「蛇の毒は出血毒や神経の毒があるんだけど、よっぽど強くないと肌は荒れないかな。体内に入って初めて効果が出る毒ね。肌に付着して爛れるようなのは粘膜から出る毒とかね」
隊長は言う。
「つまりカエルなどの毒か」
「そう。両生類が持つ毒の特徴に似てるわね」
ハンスは言う。
「犯人はカエル王国か、それで、大使の様子は?」
「安静にするためにまだ魔法で眠ってもらってる」
隊長はまとめるように今後の方針を話す。
「ハンス、ラルスと一緒に大使の身辺を洗え。背後関係や動機が出て来るかもしれん」
「了解。隊長は?」
「ローナ、一緒に来い。カエル王国で問い詰めるぞ」
「分かったわ」
こうして僕らは二手に分かれて調査する事になった。
僕とハンスは町の中を歩く。
魔族同士の対立はあるものの、人間たちは平和なようで開け放たれた商店などが立ち並ぶ。
「診療所の周りしか見てなかったけど、ある程度の規模はある町だね」
「この発展具合なら情報収集も出来そうだな」
人で賑わう町中を歩きながら僕は言う。
「まずはギルドかな」
でもハンスは言う。
「いや、今回は別の所へ行こう」
「別の所?」
僕が聞き返すとハンスは答える。
「大使の経歴や身辺が調査対象だ。ギルドより行政の担当部署の方が良いだろ」
「なるほどね」
「じゃ、さっそく行こうぜ」
そう言いながら目的の場所を目指す。
やがて人が出入りする大きな建物が見えてきた。商工会議所みたいにも見える大きな建物だ。一階は石造りだろうか? 灰色の壁が目立つ。その上には増築されたのだろうか、木造の二階部分が見えており、コントラストが目新しい。
そんな建物は中も綺麗で整えられていた。
色々な手続きなどをする人々を横目に目当ての部署へ。
そこでハンスが紋章を提示して言う。
「どうも。少し調べて欲しい物があるんだが」
「はい、!? その紋章は…!」
「アルテアの調停官兼、天の使いのヤボ用だよ」
「はい、ただいま。どのような調べ物でしょうか?」
「魔族同士の諍(いさか)いの仲裁をする人物についてだが」
ハンスは経緯を説明する。
「って感じで大使が遣わされてる筈だ」
「あ、それでしたらあの方ですね、少々お待ちを」
思いついたようで職員は書庫の方へ。
そして少ししてファイルを持ってくる。
ハンスは言う。
「悪いな」
「大使について何かあったんですか?」
「まあ、少しな」
言いながら資料をめくる。
僕はその様子を眺めながらハンスに聞く。
「何か気になる事はあるかな?」
「大使の財務にも問題無し、人間関係は…これは?」
「どうかしたの?」
「ちょっと待て、すみません、この、大使の人間関係の交友関係の欄ですけど」
聞かれた職員は答える。
「はい、なんでしょう?」
「交友関係に幅広い種族と関係あり、一部強い繋がり、の記載があるが」
「はい、大使はこの辺りの名士ですからね、色々な方と交友があります。山の中で生活する部族や亜人などにも顔が効きますよ」
「大使自身に亜人の血が流れてるとは聞いてたが、交友関係自体があるから魔族同士の衝突の仲裁役に選ばれたのか」
「そうだと思います」
「その辺りに詳しい人物は居るか?」
「さあ、この役所の中には…個人的な付き合いについて、こちらから情報を提供する事はできませんし、公的ではない情報がある訳でもありませんので。大使の人間関係に関する事でしたら町の情報屋の方が詳しいかもしれません」
「分かった、ありがとう」
こうして僕らは資料を借りて役所を出る。
僕は聞いてみる。
「情報に詳しい人を探さないといけないね」
「ああ、どこか分かるか?」
「酒場かな」
「調査の仕方が分かってきたじゃないか」
ハンスは笑顔を返してくれた。
役に立ててる実感が少しだけ出てきて、僕は嬉しくなった。
気を引き締めつつ、こうして僕とハンスは酒場への聞き込みに向かうのだった。
まだ明るい町。
徐々に人々の流れが変わっていく。あるいは商売に、あるいは食事のため食堂に。そんな感じで人通りは変化していく。
そんな町中でも、活気が続く場所。
看板にはお勧めのお酒とメニュー表なんかが出てる。
僕が入るにはまだ年齢が足りなそうなその場所は入り口にまで中の喧騒が響いていた。
ガチャ、とドアを開け中へ。
ガヤガヤと騒がしい店内はお酒の匂いと楽し気な会話が広がる空間だった。
僕とハンスは奥へと進む。僕らはそれに続くけど、お客さんの中には僕の姿を少し気にする人たちもいるようだ。
おじさんの一人は「お、なんだ、小さい冒険者の酒場デビューか」などと言ってたけど仲間らしい人が「やめろって。坊主、すまんな」なんて僕に言ったりしていた。
みんなフランクになる独特な雰囲気の中、カウンターへ。
ハンスは言う。
「やあ、少しいいか?」
「お酒かな? そっちの子供にはジュースでいいかな」
「飲みたいのはやまやまなんだが仕事なんだ」
「こんな時間まで仕事ですか」
「仕事熱心で評価されてるんだ。お国からはな」
言いながら紋章を出す。マスターは言う。
「天使のお墨付きの調停官ですか。高級官僚がこんな場所へどんな用ですかね」
「しがない宮仕えだよ。下っ端まではいかないが単なる公務職員だ」
「税金はちゃんと納めてますよ」
「そいつは結構だ。いいお店だ。でも用件はそういう事じゃないよ。安心してくれ。少し調べ物をしてるんだが、フォルトナー大使の事について聞きたい。詳しいんだろ」
「まあ、付き合いも長いですから」
「彼が魔族の仲裁をしてるのは知ってるよな? その辺りの事なんだが彼の親族に魔族に近しい人が居ると聞いた」
「そういう事ですか」
「別に彼が魔族と繋がってて悪だくみしてる、とか疑ってる訳じゃないんだ。どういう関係でそんな噂みたいな話が出てるかなんだ」
「特に変な話ではないですよ。大使の親族が亜人や魔族相手に商売をしている、という話です」
「亜人や魔族と?」
「そんなに珍しい話じゃないですよ。魔族と衝突してる地域もありますが場所によっては取引先にもなったりします。大体大使自身が亜人の血を引く方ですからね」
「どんな相手と取引してるんだ」
「詳しくは知りませんね。亜人の村の方が詳しいと思います」
僕は言う。
「亜人の村…カエル王国とスネーク連合の中間にあるあの村だよね」
「そうです」
僕は言う。
「そこなら行った事あるよ、あそこの人が詳しいんですね」
ハンスも「よし、そっちで聞き込みして見よう」と言い、僕は酒場の主人に「ありがとうござます」と礼を言い、その場を後にした。
僕とハンスはカエル王国からスネーク連合の住処へ続く途中の魔族の村へ。
前に来た時に挨拶してくれたオークのおばさんに会う。
おばさんはまた気軽に挨拶してくれる。
「おや、あんたたち、また来たのかい」
僕は答える。
「はい、調査を頑張ってます」
「そうかい、えらいね。何か用でも出来たのかい?」
「フォルトナー大使について調べてます。大使とお付き合いのある人や魔族についてなんだけど」
「そういう事なら、あ、あそこのヤギのおじさんがよく知ってるよ、呼んであげるわね。お~い、ちょっとアンタ…」
おばさんは大使について詳しいというヤギの亜人さんを呼んでくれた。
かくかくしかじか。
僕は言う。
「という事で、大使がどんな亜人や魔族とお付き合いがあるか調べてるんです」
するとヤギのおじさんは答えてくれる。
「ああ、それなら、大使ですけど彼の妹がこことは違う地域の蛇族を相手に商売をしています」
その言葉にやや驚く僕。
ハンスが割って入って質問する。
「初耳だな、それじゃ見方によっては大使は中立じゃなくて蛇たちに味方しそうだとも思える。この事はみんな知ってるのか」
「知ってる人は知ってますよ。この村ではね」
「カエルたちや蛇たちもか」
「それはどうでしょう。ただ、知ってたら話題にはなると思います。少なくともカエル側では」
「だろうな」
「ただ、大使が蛇側の見方と言うと、それも違いますね。大使は我々亜人や魔族を公平に付き合いを持ちます。私情を持ち込むような人ではないですよ」
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