第29話 今回の真相
集まった僕らは情報の確認と今後の動きについて打ち合わせる。
隊長は言う。
「スライムはイオウやその化合物を吸収していた。それにより毒性や、逆に健康を促進したり弱い治癒的な能力を持った」
その言葉にハンスが意見しやりとりする。
「問題はどこでイオウを吸収したかですね」
「スライムの活動範囲は広くない。水場以外へ行く可能性はあまりないだろう」
「そう考えるとイオウの方がスライムの住み家に入り込んでしまったと考える方が自然ですね」
「住み家の近くで活動や開発していた会社のリストを見せろ」
言われて僕らは集めた資料を見せる。
隊長はそれを確認しながら言う。
「町同士を結ぶ道を整備してる会社はあるが不審な点は無い。トンネルでも掘っていればイオウが出てくる事もあるだろうが今回は無いな」
ハンスも同意する。
「草刈りや崖に面した道の修復などですね。今回は除外して良さそうです」
「山林開発だが…いくつかの会社が資源を採集してるな」
「木材の調達がメインですね。町で使う建築素材として伐採などをしているんでしょう」
「…これを見てみろ」
隊長はリストのひとつを僕らに見せる。
「ここだけ別の分野だ。鉱山関連の開発をしてる」
僕は言う。
「イオウが関係あるならここの会社かな」
ローナはその会社の簡単な事業内容を見て言う。
「炭鉱を掘ってるのね。川のすぐ近くじゃない」
隊長は意見をまとめるように言う。
「この会社を調べるぞ」
こうして全員で会社へ行く事になった。
町の中の一角にある大きな建物。
石造りのその建物はギルドほどではないにしろ、外見から中の広さも結構な規模だと予想でき、入っている会社の規模もまた小さくはないのだと知れる。
その建物へ入りハンスは調停官を名乗り対応を求める。
すると一つの部屋へ通され担当者が現れた。
少しだけ白髪が混じり始め、メガネを掛けた痩せ型の中年の男は清潔に気を使ってそうでまじめな態度で応対を始めた。
ハンスは代表して質問する。
「川の上流で炭鉱を開発してるな?」
「ええ。国の山林などの資源開発局から仕事を請け負っています」
「その開発なんだが…安全管理について質問したい」
「安全管理…ですか…」
「開発の最中イオウと言う物質が出てないか?それらの管理について聞きたいんだ」
「イオウ…ですか。う~ん…ちょっと分からないですね。炭鉱工事中の落盤などは注意するようにしていますが…」
その言葉に隊長が言う。
「採掘中の不純物の管理などはしていないのか」
「それは…あまり資料が無いんですよ」
「管理記録がないのか?」
「ええ…私は安全管理担当も兼ねているのですが…お恥ずかしい話なんですが最近担当になったばかりでして」
その言葉にハンスが聞く。
「前任者からの引継ぎは?」
「それが…あまり…いささか事情がありまして」
隊長は鋭い視線を向けながら聞く。
「どんな事情だ」
「前任者は解雇されたんですよ。それもかなり急に」
今度はハンスが身を乗り出す。
「解雇理由は?」
「それもよく分かりません…噂ではありますが会社に何か進言した、という話は聞きましたが…それからほどなく退職になったと…」
隊長とハンスはわずかに視線を合わせる。
僕にもなんとなく怪しい雰囲気が感じられたけど二人は何かのきな臭いニオイのような物を嗅ぎつけたようだった。
隊長は言う。
「前任者の住んでる場所を聞きたい」
「分かりました。調べてきます」
こうして僕らはその人の所へ話を聞きに行く事になった。
僕とハンスはその会社の従業員だった人の家へ。
玄関口で立ち話をするようにしながらその人は証言してくれた。
「俺は言ったんだよ。炭鉱から毒性のある可能性の物が漏れ出す可能性があるってな。そしたらしばらくしてクビだ」
「危険性を指摘したんだな?」
「ああ。少し前から作業の最中、その毒性がありそうな物が出始めた傾向があった。少量だから無視する事もできたけどな。でもそれから掘ってる最中に地下水が出水したり閉鎖された炭鉱などが大雨で水没して、その水が川にまで流れる事があったんだ。この時、その水にその毒性のある物が混じってる可能性があって川の水が汚れる可能性もあるって進言したんだ」
その言葉にハンスは言う。
「でも対策は取られなかった」
「そういう事。会社としては無視したかったんだろ。金も時間も掛かるからな。俺は何度か言ったんだが結果は厄介払いだ」
そういう事だったんだ…
僕はそう思いながら利益優先の姿勢が原因だと少し残念な気持ちになってしまった。
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