第6話 謁見

「遠いところからよく来てくれた。私がファイアフィルド現国王、バーナー12世だ。天の御使い(みつかい)との巡り合わせ、神に感謝しよう」

お髭の立派な堂々たる国王様だった。

謁見の場に並んだ僕らだったけど、隊長が手短に話を進める。

「こちらこそ。急な謁見への対応、感謝します」うやうやしく礼をする隊長。

それに国王が答える。

「よい、よいのだ。そのような言葉遣いなど。天の御使いにへり下らせたとあっては末代までの恥。普通に話してくれ。それと何か用があってここへ参ったのであろう」

「話が早いのは助かる。ではお言葉に甘えて。私はヴァルキリー・ヴァネッサ。こっちはパーティーのハンス、ラルス、ローナだ。人間、それに獣人だ」

隊長はローナを獣人と誤魔化した。

ハンスが「よろしくお願いします、バーナー国王」と礼をしたので僕とローナも

「「よろしくお願いします」」と同時に頭を下げる。

それを見終えた隊長が話を続けた。


「紹介はこれで省く。単刀直入に聞く、国王よ。この国で何か問題が起きているな?

内政に干渉はしない。だが人命に関わる事、種族間の対立なら助力を申し出たい」

隊長の申し出に王様は驚きつつもため息を漏らした。

「うむむ…人の噂の伝わりの何と早い事か…すでに遠い地にまで話が広まりつつあるのだな」

王様は重い口を開いた。

「確かに、現在この国に問題が起きておる。我が国が持つ研究所の所長、ジルキン博士が行方不明なのだ」

「失踪して何日経つ?」

「6日だ。失踪翌日から内密に捜査したが3日目には噂が漏れ出したようだ。恐らくちょうど4日目あたりに冒険者を通じて各方面に話が漏れたのだろう。それを其方たちが聞いてやってきた」

沈痛な面持ちで話す王様に隊長が言う。

「事件の詳細に詳しいのは?」

「うむ。大臣の1人、コルソーだ。こちらにおる」

「すぐに詳細を確認したい」

「よかろう、コルソーよ、この者たちに経緯と記録を…」

言いかけた王様をコルソーと言われた大臣がこう返す。

「ただちに用意いたします」

王様の指示に素早く対応しようとする大臣。

そんなコルソー大臣に王様は「頼むぞ大臣」と冷静に声を掛けた。

こんなやりとりがあったのでこの後全員でコルソー大臣から話を聞くのかな、と僕は思ったけど少し違うようで隊長が僕らに声を掛けて指示を出す。


「ハンス、ラルスとローナを連れて詳細を大臣から聞け。私は国王にまだ聞くことがある」

ハンスは「分かりました。王様、先に退出させていただきます。謁見ありがとうございました」と言う。

顔もまじめで普段のお調子者の雰囲気は全然無いハンスだった。

僕らも「ありがとうございました!失礼します」と言いハンスに付いて行きながら早々に退出した。


「こちらへどうぞ…」と僕らを案内する兵士に付いていく僕たち。

兵士が「大臣が資料をお持ちします、お待ちください」と言って出て行った。

別室で待機させられる間、僕はハンスに聞いてみる。


「ねえハンス、博士は大丈夫かな?」

そんな当然の疑問にハンスは以外にも厳しい返答を返してきた。

「こういう事は言いたくないが、正直厳しいかもしれないぞ。お前ら少しぐらいは覚悟しておけよ」

僕はハンスが普段の軽い調子で「大丈夫だ」という言葉をどこかで期待していたのだろうか?

想定していた返答との違いに面を食らってしまった。

そんな僕らにハンスが続ける。


「研究者の失踪は大きく2パターンだ。一つは研究素材を探しに行っている最中、登山道から滑落したり魔物に襲われたり。残り1つは誘拐だ。その内1つは身代金目の営利誘拐、もう1つは技術と情報目当てだ」

淡々と説明するハンス。

「素材収集の登山中の遭難だともう6日はギリギリだ。このファイアフィルドの気候なら凍え死にはしないが水の確保が出来なければ終わりだ。魔物に襲われてた場合も終わり。営利誘拐は今回除外だ。身代金の要求がない。あったらさっきの説明でしてる。最後は技術や情報目当てだが苛烈な拷問が伴うのは想像に難くない」

ハンスの話はどんどん暗い物になっていった。

「お前ら見習いには正直キツい展開になるかもな。俺もバックアップはしてやる。

なんだかんだあるが、お前らにはゆっくり、じっくり調査の手順を見せたり焦らず教えてやりたいとも思っていたが、ちょっと悠長な事が出来る場合じゃない場面もあるかもしれない。お前らも出来る限りでいいから付いて来いよ」

ハンスの言葉に僕の表情は沈んでいく。

ローナが「ラルス?大丈夫?」と声を掛けてくれた。

そんな僕にハンスが言う。


「おい、今少しシビアな事言ったがそんな顔をするな。お前どうせ”困ってる人の為に行くだけ行ってみる、隊長から何か学べるかも”って旅立ちの時の言葉を軽はずみだったかも、なんて考えてるんだろ」

びっくりした。

「すごいねハンス、分かっちゃうんだ…」

「一応上級調停官だぞ。心構えはしておけ、ってだけだ。それに何と言ってもヴァルキリーの隊長が付いてるんだぞ。きっとなんとかなる」

「う…うん」

生返事をする僕にハンスが続ける。

「あの人は伊達に隊長と呼ばれてない。あらゆる面で畏怖と尊敬を込めて隊長、とそう言われるんだ。お前らは知らないだろうが、あの人の凄さの本質を事件解決後にきっと分かるはずだ。そして自分が成長するために何を学ぶべきなのかもな」

そう言って僕らを励ますハンス。

「それに俺も付いてる。とにかく頑張れ」

「そうだね、それに一番不安なのは博士だろうね。きっと生きてる。そして捜索を待ってるよね。僕らが頑張らなくちゃ」

再び前を向く。

ローナも「その意気よラルス!」なんて言って励ましてくれた。

僕が気持ちを前に向かせた所でコルソー大臣が「お待たせしました」と数名の部下を連れ、そして資料を持参して部屋に入ってきた。

こうして僕らは今回の事件の経過について説明を受けることになった。



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